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Canary Wharf便り~欧州医薬品庁(EMA)にて~第5回 2010年10月

2010年10月22日
林  憲 一

 2009年11月下旬から、ロンドンにあるEuropean Medicines Agency(以下Agencyという)にMHLW/PMDAのLiaison Officialとして派遣され、長官オフィス(Office of the Executive Director)に籍を置くこととなりました。この機会に、Agencyに関する情報や話題について、Canary Wharf便りと題して報告したいと思います。

 なお、このCanary Wharf便りは、Agencyに派遣されている林がAgencyに関する情報を個人の立場でまとめたもので、Agencyあるいは派遣元である厚生労働省(MHLW)、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の見解等を示すものではないことにご留意下さい。

CHMP以外の科学委員会

 Agencyの科学委員会(Scientific Committees)にはCHMPの他にも、動物用医薬品委員会(CVMP)、オーファン医薬品委員会(COMP)、生薬委員会(HMPC)、小児委員会(PDCO)、先進医療委員会(CAT)があり、CHMPと連携しながら各分野の医薬品の科学的評価を行っています。CHMPとCVMP以外は、異なる時期にそのときどきの社会的要請に従って設置され、根拠法令も一部異なっていたりするため、役割はもちろんメンバー構成や手続き等にも違いが生じ、やや複雑な構成になっています。今回と次回に分けて各委員会の概要を紹介します。

(1) CVMP

  CVMPはCHMPとともにAgency設立当初から設けられている科学委員会です。もともと規則(EEC)No 2309/93に基づき設置されましたが、その後の改正を経て、現在は規則(EC)No 726/2004が設置の根拠とされています。CVMPの役割は、動物用医薬品に係るあらゆる疑問に対しEMAの見解を用意することです。中央審査手続きの中でEU全域での販売承認を求める動物用医薬品に対して評価を行うとともに、市販後の承認内容の一部変更の評価も行っています。

  CVMPの評価は、純粋に科学的クライテリアに基づき、必要とされる品質、安全性、有効性の各要件をその動物用医薬品が満たしているかどうかをEU法令、特に指令2001/82/ECの規定に従って確認することにより行われます。このプロセスを経ることにより市場に出る動物用医薬品が使用対象の動物(Food Producing Animals及びCompanion Animals)にとってポジティブなリスク/ベネフィット・バランスを有していることを確認するという点では、人用医薬品の評価におけるCHMPの役割と同じと言えます。

  承認された動物用医薬品の安全性モニタリングは、各加盟国の規制当局からなるネットワークを通じ、この分野の専門家や製薬企業と協力して行われます。CVMPはEU全体のファーマコビジランス活動を通じて安全性上の問題(この中には環境へのリスクも含まれる)をモニタリングし、必要な場合は動物用医薬品の販売承認の変更、販売の一時中止又は承認の取消しに関し、欧州委員会に勧告を行うことができます。

  相互承認や非中央審査の手続きにおいて、加盟国間で特定の動物用医薬品について意見の相違があるときにそれを調停したり(arbitration procedure)、公衆衛生上の危害の防止や共同体の利益に係る事項に関して意見を求められた場合に見解を示す(Community referral procedure)点もCHMPの場合と同様です。

  CHMPとの違いは、CVMPの活動の中心が残留基準(Maximum Residue Limits)、つまり動物から作られ人が消費する肉類、乳製品、ハチミツ(!)等の食品中の動物用医薬品の残留許容限界を設定する点にあります。これらの基準値は販売承認が与えられる前に、その医薬品に含まれる全ての薬理活性物質に対して定められます。CVMPではこの他にも、動物用新医薬品の研究開発を行う企業の支援、動物用医薬品に係るガイドライン等の策定、関係各国と協力して動物用医薬品に係る規制要件をハーモナイズするVICH等の活動に関わっています。

  CVMPのメンバーは、動物用医薬品の評価に携わった経験や専門分野に対する造詣の深さを考慮して選ばれ、その任期は3年です。CVMPの構成は、CVMPメンバーの中から選ばれるChair(現在のChairはデンマークのAnja Holm)、27の加盟国から指名されたメンバー各1名とその代理、EEA-EFTAのアイスランド、ノルウェーから指名された各1名とその代理、特定の分野に関して必要な専門知識を得るため加盟国又はAgencyが指名した専門家の中から選ばれる5名の選任(co-opted)メンバーから構成されます。CVMPもCHMP同様8月を除き毎月開催されますが、期間は3日間です。

  CVMPの下では前号で解説したワーキング・パーティー(WP)及び科学的アドバイザリー・グループ(SAG)として、動物用医薬品有効性WP(EWP-V)、免疫学WP(IWP)、CHMP/CVMP合同品質WP(QWP)、動物用医薬品ファーマコビジランスWP(PhVWP-V)、動物用医薬品安全性WP(SWP-V)、動物用医薬品科学的アドバイスWP(SAWP-V)、環境リスクアセスメントWP、抗菌剤に係る科学的アドバイザリー・グループ(SAGAM)等が活動を行っています。

(2) COMP

  COMPは、オーファン規制に関する事項を定めた規則(EC)No 141/2000に基づき設置され、その役割は生命に関わるかまたは非常に重篤な症状を伴い、EU内の患者が10000人中5人以下であるような疾患の診断・予防・治療の目的でこれから開発しようとする医薬品に対し個人又は企業から提出されたオーファン指定申請の評価を行うことです(EUのオーファン規制の概要については、第3回Canary Wharf便りの2. 欧州オーファン規制の10年カンファレンスでも紹介していますので併せてご覧下さい)。COMPはまた、EUのオーファンドラッグ規制に関わる政策立案やこの分野の国際協力等に関し欧州委員会に助言を行う機能も有しています。

  COMPのメンバーは、Chair(現在のChairはスウェーデンのKerstin Westermark)、27の加盟国から指名された各1名、患者団体代表として欧州委員会から指名された3名、Agencyの推薦に基づき欧州委員会から指名された3名、EEA-EFTAのアイスランド、ノルウェーから指名された各1名、欧州委員会の代表1名、そして若干名のオブザーバーから構成されています。COMPは毎月2日間開催(8月を除く)されます。

(3) HMPC

  HMPCは2004年9月にそれまでのCPMP(注:CHMPの前身) Working Party on Herbal Medicinal Productsに代るものとして設置されました。設置の根拠となっているのは指令2004/2004/EC及び規則(EC)No 726/2004で、この2つの法令により加盟国における伝統生薬の登録手続きの簡素化が図られています。

  HMPCの活動は、各加盟国が定めている生薬製剤に関する法令や手続きのハーモナイゼーションをサポートし、さらに多くの生薬製剤をEUの規制の枠組みに組み込むことを目的としています。目的の一部として、HMPCでは加盟国やEUの公的機関に生薬製剤に関する科学的見解を提供するほか、「伝統生薬に用いられる生薬物質、製剤及びその配合剤の共同体リスト(注:評価を行うべき生薬のリスト)」及び共同体生薬モノグラフの作成を進めています。

  HMPCは、生薬製剤の分野の専門家として27の加盟国及びEEA-EFTAのアイスランド、ノルウェーのから指名されたメンバー各1名とその代理から構成されており、ChairはHMPCメンバーの中から選ばれます(現在のChairはドイツのKonstantin Keller)。また5名までの選任メンバーが加盟国又はAgencyより指名された中から選ばれ、専門家としてHMPCの審議に貢献しています。現在選任メンバーとしてHMPCに出席しているのは、臨床薬理学、実験薬理学/非臨床、毒性学、小児用薬、一般薬の専門家です。HMPCには、European Directorate for the Quality of Medicines (EDQM)やEU拡大プログラムの一環としてEU加盟前の国(クロアチア、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国、モンテネグロ、セルビア、トルコ)もオブザーバー参加が認められています。HMPCは隔月(奇数月)で2日間の開催です。

  HMPCの下には、それまでのHMPC 安全性・有効性ドラフティング・グループに代えて2006年1月に共同体モノグラフ及び共同体リストに関するワーキング・パーティ(MLWP)が置かれ、上述の共同体リスト、共同体生薬モノグラフの原案作成の作業を行っているほか、生薬類の確立した使用法、伝統的な使用法に関するガイドライン作成や生薬分野における安全性問題への対応などの役割を果たしています。

ナノメディシンに関する第1回EMA国際ワークショップ

 2010年9月2-3日にEMA内で、ナノメディシン(ナノテクノロジーを応用した医薬品)の科学的評価に関する第1回国際ワークショップが開催されました。ワークショップにはEU各国に加えて、日本、米国、カナダ、オーストラリア等27カ国から約200名の関係者が参加し、ナノテクノロジーの医薬品分野への応用がもたらす利益と課題について議論が行われました。参加者は、規制当局、アカデミアのほか、患者団体、医療関係団体、製薬業界の代表でした。

 ワークショップでは、米国MITの神経科学者Dr Rutledge Ellis-BehnkeによるKey note lectureに引き続き、ナノメディシンの1. 製造・品質特性、2. 生体相互作用・非臨床評価、3.既承認のナノメディシン(リポソーム製剤等)、4. 今後出てくる可能性のある新たな技術を用いたナノメディシン、5. ナノメディシンのリスク管理(環境リスクの管理を含む)、6. この分野における国際協力の展望の6つのセッション毎に多彩なプレゼンテーションと質疑が行われ、それらを通じて既承認及び開発中のナノメディシンに関する経験が共有されるとともに、現行の規制の限界と可能性、今後出てくる可能性のある新たなナノメディシンの評価への備えといったことが議論されました(セッション6.ではFDA、Health Canada、国立医薬品食品衛生研究所から各国の取組みが報告されました)。

 ナノテクノロジーは広汎な可能性を秘めていますが、実際に開発され応用されているのはまだ一部に過ぎません。その技術はナノスケールでシステムを改変し、より高度なドラッグ・デリバリーシステム、先進的かつ複合的な診断/治療機能、再生医療の基質や支持構造物等の多様で有用な機能につながる可能性があります。

 Agencyのヒト用医薬品開発/評価ユニット長であるPatrick Le Courtoisは、質の高い安全かつ有効なナノメディシンを遅滞なく導入するためには「備え(preparedness)」が欠かせないこと、ナノメディシンには現行の治療法の改善に止まらず、私たちの医療や疾病へのアプローチの仕方自体を根底から変える可能性のあることを指摘していました。

 Agencyではこれまでナノメディシンに該当するものとして18の販売承認申請(MAA)を審査しています。その中には、リポソーム製剤、ナノ粒子、ポリマー複合体が含まれ、薬効群でみると、抗感染症薬、抗腫瘍用薬、免疫調節薬に関する製剤が多かったようです。申請は既存の規制の枠組みの下で他の医薬品と同様、ベネフィット/リスク・バランスを評価する方法をベースに、製剤の科学的な評価に必要な新規開発モデルや試験方法なども柔軟に取り入れながら評価されたことが確認されました。

 一方、今後出てくる可能性のある新たな技術を利用した治療法には、現行の規制の枠組みや要件、ガイドライン等で十分に対応できるのか、規制側にとって適切な専門知識が利用可能かといった課題が伴いますが、ナノサイズやナノシステムの生体内における特異な振舞いのために現在の試験法では一部に限界があることや新たな試験法の信頼性の問題等の科学的課題が明らかになったという意味で、今回のワークショップは規制関係者にとって非常に貴重な機会となりました。

 新たな技術を用いたナノメディシンの品質、有効性、安全性を的確に評価していくための十分な科学的基盤を築くためには、科学者と規制側との継続的な対話に支えられた更なる科学研究が必要です。ワークショップでは、ナノテクノロジーの医薬品分野への応用には、地域を越えたグローバルなレベルでの情報や専門知識の蓄積が必要なことで参加者の意見が一致しました。

 Agencyはこのワークショップを皮切りに今後もナノテクノロジーの医薬品分野への応用について患者を含む全ての関係者と対話を続け、科学の進歩に遅れることなく、患者のニーズ中心の科学に基づくイノベーションのための規制環境を整備していくことを表明しています。

 ワークショップのプレスリリースとプレゼン資料は以下のリンクから辿れます。
European Medicines Agency’s workshop on nanomedicines
 

第三国(EU以外の国)で実施されEMAへの販売承認申請(MAA)に使用されるヒト用医薬品の臨床試験の倫理及びGCP面に関するリフレクション・ペーパー案に関する国際ワークショップ

 上記ナノメディシンに関する国際ワークショップに引き続き、EMAでは翌週の9月6-7日に標記国際ワークショップが開かれ、各国から集まった関係者が、臨床試験に関するグローバルな枠組みの構築に向け、世界で実施される臨床試験に参加する患者の健康や安全性、権利を守るためになすべきことを中心に議論を行いました。

 本ワークショップは、リフレクション・ペーパー案に対する一般からの意見募集の一環として開催されたもので、世界五大陸の50を超える国から約170名の関係者が参加し、リフレクション・ペーパー案の内容への意見とペーパーの文脈に沿った国際協力のあり方について議論が交わされました。参加者は、患者団体、医療関連NGO、製薬業界、倫理委員会、各国規制当局、国際機関の代表でした。

 リフレクション・ペーパーは、臨床試験のグローバル化が進むことに伴って生じる課題に対応するため、CHMPより選ばれたメンバーから成るワーキング・グループによって書かれたものです。彼らの調査によると、それまで欧米を中心に実施されていた臨床試験が2005~2009年には、EMAに提出されたMAA中のpivotal trialsに参加した患者の割合で見るとEU及びEEA域内で治療を受けた人は38.8%に過ぎず、全部で89か国の44,000サイトで試験が行われ、得られたデータは347のMAA及び一部変更申請に使用されていました。

 EUの規制関係者は、MAAをサポートするものとしてEUに提出される試験がEUでも倫理的に受入れ可能かどうかを、EU以外の国で実施された試験にEUで実施される臨床試験と違ったスタンダードが適用されることがないよう注意しながら確認しています。

 AgencyのGCP査察部門長のFurgus Sweeneyは、冒頭、ワークショップの趣旨を説明する中で「今や多くの臨床試験が欧州以外の地域で、欧州とは別の規制の枠組み、別の文化的背景の下で実施されている。一方、EUの規制関係者がMAAを認めるかどうか、患者や医療関係者が医薬品を使うかどうかは、EUと同じ倫理基準に依拠した試験に基づいて決定されなければならない」と述べていました。

 リフレクション・ペーパー案はこのジレンマと向き合い、被験者を最大限保護しつつ安全で有効な医薬品をいち早く患者のもとに届けるためには何が必要か」という問題意識に沿って書かれており、各章毎に、研究者(医師)、倫理委員会、スポンサー企業、規制当局等に対して多数の「実際的な」提案や勧告が記載されています。2日間のワークショップでは以下の3点にハイライトが当てられました。
  ・ 能力開発の活動を含め、臨床試験の監督に当たる規制当局間、倫理委員会との間の協力やネットワークの必要性。
  ・ 臨床試験登録、試験の倫理・GCP面の評価や措置のEPAR(European Public Assessment Report)への記載を含めた臨床試験の一層の透明化の必要性。
  ・ プロトコール策定の早い段階から患者が参加し、被験者保護の確保を図ることの必要性。

 Thomas Lonngren長官からは会議の最後に、ワークショップ参加者の貢献への感謝の言葉とともに「必要なのは、世界のどこに臨床試験のサイトがあり患者がリクルートされようとも、臨床試験の監視と実施のために役立つ堅固なフレームワークである。Agencyは各国規制当局や国際機関と協力を強化し、全員が合意できるスタンダード作りのため積極的に取り組んでいく」との発言がありました。

 リフレクション・ペーパー案に対して寄せられたコメントはワークショップで出たものも含め全て事務局でレビューされ、2011年半ば頃とされるリフレクション・ペーパーの最終化に役立てることとされています。

リフレクション・ペーパー案の情報は、以下のリンクからダウンロード可能です。
International workshop on the ethical and good-clinical-practice aspects of clinical trials conducted in third countries
 

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