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国際関係業務

ワシントンDCメトロ便り 第1回 2010年4月

 

2010年4月16日
植村 展生

  2010年2月中旬から、米国東海岸のワシントンDC近郊(正確には、ワシントンDCから地下鉄のメトロで行けるメリーランド州ロックビル市)にあるUSP(United States Pharmacopoeia:米国薬局方)事務局(以下「USP」という)に、MHLW/PMDAのLiaison Officialとして派遣され、初めてのことですが、USPのVisiting Scientistとして総則のチーム内に籍を置くこととなりました。

  今まで、USPの活動については、ICH(日米欧医薬品規制調和国際会議)と並行して、三極の薬局方等(JP,USP,EP)が国際調和について活動しているPDG(日米欧三薬局方調和検討会議)に日本が参加している時に、USPの活動との比較が行われるようなことはあっても、USPの業務内容についてはあまり紹介されることは無く、日本の規制当局や局方関係の専門家においても、USPが何をしているか、何を目指しているのかを知る機会は少なかったのではないかと思われます。

  そこで、USPの建物の中にオフィスをお借りして、JPとUSPの相互理解と意見交換の強化に関わりながら、FDAその他米国関係機関との関係強化の機会を得た今回、ワシントンDCメトロ便りの第一回目として、USPの活動の概要をまず紹介することといたします。

  また、こちらに着任以来、FDAの開催するいくつかの諮問委員会(Advisory Committee)を傍聴いたしましたので、その会議の運営などについてお伝えいたします。

  なお、この便りは、USPに派遣されている植村がUSP,FDA等に関する情報を個人の立場でとりまとめたものであり、USP、FDA等の米国関係機関あるいは派遣元である厚生労働省(MHLW)、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の見解等を示すものではないことにご留意下さい。
  また、日本語版は英文版よりも多少言葉を補っていますので、同一の翻訳ではないことをご承知おきください。

第1回 ワシントンDCメトロ便り

目次

  1. USPの歴史と役割
  2. USPの最近の活動
  3. USPの次期5カ年計画(2010-2015年)
  4. USPの専門家委員会とアドバイザリーパネル
  5. 米国薬局方(USP)の回収問題
  6. FDAの諮問委員会

追記        FDAの新キャンパス

1.USPの歴史と役割

  USP(United States Pharmacopeia)とは、「米国薬局方」の医薬品規格基準書(4000品目以上の医薬品が収載されている公的基準書)のことを言うと同時に、それを作成している事務局組織のこともUSPと言います。

  設立は1820年、当時の米国11州の医学会の代表が招集され、医薬品の基準と品質管理及び全米レベルでの医薬品集の作成が開始されました。最初の版は217種類の医薬品だけが汎用規格に適合とされています。

  1830年には改正作業のための7人からなる委員会が組織され、10年ごとに改正版が出されることが始まっています。1848年には連邦政府の法律でUSPが公式の概要一覧書とされ、1906年の米国食品医薬品法(Pure Food and Drugs Act)の制定に伴い、公式の基準書と位置づけられています。さらに1938年の米国連邦食品化粧品医薬品法(Federal Food, Drug, and Cosmetic Act)の制定によって、新薬の上市の前にFDAが承認することとされた際も、公式の基準はUSPが設定し、その遵守についての行政措置はFDAが行うこととされました。

  1942年からは改正が5年毎とされましたが、2002年からは毎年発刊されることとなりました。

  1968年には本部事務所がニューヨークから現在のメリーランド州ロックビル市に移転し、1970年には代表職が置かれ、ウィリアムヘラー氏(William M.Heller,Ph.D.)が初代代表となりました。1975年には米国薬剤師会(American Pharmacists Association:APhA)から医薬品の試験室を獲得し、1994年には米国医師会(American Medical Association:AMA)の医薬品評価データベースとUSPの医薬品情報データベースが統合されました。(注:USPは現在では医薬品情報データベースの活動を直接行っていません。この種の情報は、米国国立医学図書館やいくつかの民間企業から提供されています。)

  さらに、1995年には植物由来の栄養補助食品(dietary supplements)の基準作成作業が開始され、1998年には標準品センター(Reference Standard Center)が新たにオープンし、インターネットでアクセスできる医療過誤報告プログラム(Medical errors reporting programがスタート、2006年には米国医学研究所(Institute of Medicine)から食品化学公定書(Food Chemical Codex)が移管されるなど、その活動を広げてきています。(注:USPは現在では医療過誤報告プログラムという形での活動を行っていません。医療過誤の情報はUSP、ISMP(医療安全研究所)企業、MedWatchのプログラムからFDAに報告されています。)

  また、1963年には、米国医師会、米国薬剤師会、USP、FDAの代表が米国名称評議会(USANC)を形成し、医薬品の名称(USAN)確定に寄与しています。

2000年には元FDAのロジャーウイリアムス氏(Roger L. Williams, M.D.)が代表(CEO)となり現在に至っています。

  この歴史を振り返ってみると、USPがその創設当初から法律に基づいて全米レベルでの基準の制定を受け持ち、その活動は政府機関であるFDA、さらに、米国医師会(AMA)、米国薬剤師会(APhA)と密接な連携をもって進めてきたことがわかります。USPが担っている公的基準の設定は、米国内での医薬品等の製造、流通、調剤、検査と取り締まりの上での判断基準となるものであり、米国国民の健康確保の基本となる医薬品の品質、有効性、安全性の確保のために欠くことのできない重要な位置を占めています。

2.USPの最近の活動

  USPのミッションは、「医薬品及び食品の品質、安全性、有効性の確保の一助となる公的基準及びその関連活動を通じて、世界の人々の健康の改善を目指す。」(仮訳)ことを掲げています。これをFDAの活動目的と比較すると、FDAは当然のことながら自国民の公衆衛生の保護(protecting the public health)に力点が置かれているのに対し、USPの目的は世界にも目を向けた健康の向上(improve the health)に視点があることが特徴的です。

  USPは現在約500名のスタッフ(2008年)を擁する非営利組織ですが、全米各地の外部の専門家を1000名以上活用して、専門的意見を組み入れながら公定書の改定や新規項目の追加を行っています。また、ロックビル市にある本部(FDA本部のパークローンビルの斜め向かい)だけでなく、スイスのバーゼル、インドのハイデラバード、中国の上海、ブラジルのサンパウロにもオフィスを持っており、各地での基準適合の認定や教育も行っています。

  USPの本部事務局組織は、公定書の各条を担当するMonographのチーム、総則を担当するGeneral Chapterのチーム、調剤技術を担当するCompoundingのチーム、名称と表示を担当するNomenclature, safety, and labelingのチーム、標準品を担当するReference Standardsのチーム、統計を担当するStatisticsのチーム、毒性を担当するToxicologyの チームに分かれた構成となっていますが、各条と総則の中で化学物質関係と生物製品関係、医薬品添加剤関係、食品添加物関係などに分かれています。

現在のUSPの活動の柱としては、

  1. 公的基準(Documentary standard)の作成、改定と公定書(Compendia)の発刊
  2. 公的基準の作成に関連した活動
  3. 公的基準の活用促進活動

  さらに、科学技術の発展や医療環境の変化への対応、米国の国際貢献、国内外の関係者及び関係機関との協力を手がけながら、公的基準の設定、拡充と、それを広めていくことによって、医薬品と食品の品質、安全性、便益性を向上させることを目指した活動を続けています。今日の世界規模に拡大した市場において、USPは世界の公衆衛生の確保に目を向けて、公的基準を設定する独立した機関としての重要性と存在意義を示しています

3.USPの次期5カ年計画(2010-2015年)

  現在のUSPの活動は、5年に一度開催される代表者会議(Convention meeting)で決定される5カ年計画(決議と規範)と、その期間の評議会(Council of Experts)、事務局と理事によって進められていきます。2010年4月はこの5年に一度の代表者会議が開催され、次期5ヵ年計画(2010年7月から2015年6月末まで)が決定されるところです。評議会委員が選出されると、その分野に応じた専門家委員会(Expert committee)の委員が選任され、具体的な基準の検討が継続して行われることになります。

  現在のUSPの活動戦略はウェブで公開されていますが、全米各地からの専門家の献身的な貢献を受けて、公定書の作成の拡充と関連活動の強化、公衆衛生の増進への対応、そして、世界規模での医薬品及び食品の品質、安全性、便益性の向上に寄与しながら、さらに世界の人々の健康の向上に目を向けた活動を目指していく姿勢("USP envisions a world")を表明しています。

  既に次期5カ年計画に向けた委員の人選などが進められており、また20に統合される各分野の専門家委員会ごとにその役割と活動内容が代表者会議で討議されて決定されることになっていますが、代表者会議は4月21日から24日の日程で開催されますので、その概要などは改めてお知らせすることといたします。

4.USPの専門家委員会とアドホックアドバイザリーパネル

  USPは、評議会の決定したルールと運営手順に則り、分野ごとに専門家委員会(Expert Committees)を組織しています。全米各地から医学、薬学、理学等の大学の教授クラスや企業の研究者でその分野に精通した専門家が委員となっていますが、中には、中国SFDAの研究者、インドの専門家なども委員に選任されている委員会もあります。

  会議はUSPの建物の中の会議室で行われますが、当日電話で会議に参加する専門家もいます。プレゼンテーション資料などはほとんどが事前に委員に送付されているので、電話による会議の議論への参加もほとんど支障が無いようです。

  専門家委員会の委員はみな個人の専門家としてUSPに対して貢献するために参加することとされており、USPの倫理指針等に従うことや、外部や個人の利益のために参加してはならないこととされています。また、委員には守秘義務がかけられ、事前に署名が求められています。

  正式な委員のほかに、その日の議題の内容によって、その分野の専門家が個別のゲストとしてあらかじめ登録されることがあります。また、5日以上前に申し込んで了承されたオブザーバーは参加者リストに名前が登録され傍聴席から議論を聞くことができますが、議長からコメントを求められることがあるほか、特定の企業のデータに関する議論が行われる時間は廊下に出るよう求められることもあります。

  また、多くの専門家委員会でその委員会の扱う活動内容に対応したFDA側からの連絡役(FDA Liaison)が指定されているほか、議題の内容によってFDAの各分野の専門家もゲストとして参加してプレゼンテーションを行ったり、議論に参加したりすることがあります。

  専門家委員会の運営は、USP内でその分野の主担当とその上司、及び議事の記録とりまとめ者と会議のロジ担当者が行い、議題ごとにプレゼンテーションを行うスタッフがその時間だけ合流して議論に参加する形式で進められています。その他のUSP関係者は、関連のある人が傍聴席に座っていますが、委員の討議の流れの中で議長に指名されて発言することもあります。

  専門家委員会は公定書の基準の設定と改定に責任を持つことから、新たな項目を取り入れるか否かなど、重要な方針の決定の時は議長の求めで賛成、反対、保留の決(Voting)を取って進められます。

  一方、アドホックのアドバイザリーパネルは、専門家委員会の上部組織である専門家評議会(Council of Experts)の議長によって招集され、通常、複数の専門家委員会の委員を横断的に招集して特定の事項を議論する際に組織されています。

5.米国薬局方(USP)の回収問題

  USP33 - NF28は、モノグラフのレイアウトの変更等をした際に多数のエラーが生じたことから、2010年10月の効力発効を前に、既に送付した米国国内分の書籍を一旦回収し、4月に再発行することとなりました。これはUSPの公定書を信じて、製造や調剤で誤りが発生することの危険性を深刻に考えての措置であることをロジャーウイリアムス他USP各スタッフが専門家委員会でも説明し、委員に送付した分の回収とともに、委員の理解を得ているところです。再発行版は追補も含めて、まずは米国国内向けに早期の送り、他国への送付はそのあとになるとのことです。ただし、WEB上での情報はできるだけ早く訂正するとのことでした。

6.FDAの諮問委員会(Advisory Committee)

  今回USPにVisiting Scientistとして滞在している期間中、USP側からFDAほか関係機関の会議への参加などが許可されていることから、2月中旬の着任以来、FDAの開催するいくつかの諮問委員会(Advisory Committee)を傍聴いたしました。

  FDAの諮問委員会は、連邦諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act)の法律に基づいて設置された諮問委員会であり、委員会の設置、構成、運営などは具体的にFDAの規則である21CFRパート14(意見聴取と諮問委員会)の中で規定されています。また、政府機関の設置する委員会の公開やFederal Registerへの告知の掲載などに関しては、1976年に制定された政府サンシャイン法に基づいて運営されています。さらに委員の利益相反の管理や情報公開に関してはFDAではガイダンスを公表しています。

  FDAの各センターがどのような問題について諮問委員会の意見を聞くかは、各センターの各セクションで個別の案件ごとに決められますが、諮問委員会に意見を聞くことが必要になる場合の一般的な考え方について、FDAはその案を2008年8月に公表しています。その考え方の柱としては、1)一般からの関心が高い案件、2)対立的な案件、3)特に専門的分野の意見を要する案件、が案として掲げられています。

  FDAの諮問委員会はFDAに対して科学的、技術的事項または方針に関する事項についての独立した立場からの意見を述べる役割を担っています。また、諮問委員会は重要な事項に関して一般からの意見聴取を行う機会を提供しています。ただし、諮問委員会はFDAに対して意見を示しますが、最終的な判断はFDAが行います。FDAは一般からの関心の高い事項に対して諮問委員会を通じて広範な意見を求めることで、透明性の高い活動を目指しています。

  FDAは現在約30の諮問委員会(約20が医薬品関係、約10が医療機器関係、その他として科学委員会、リスクコミュニケーション委員会など)を運営しています。

  委員会の会議の運営はその日の議題によって様々なようですが、基本的なパターンのひとつとして、新医薬品、新医療機器の承認に関してFDAが諮問委員会からの意見を求める場合は、最初に申請企業側から約90分の説明と質疑、次にFDA側から90分の説明と質疑、さらに、一般からの意見聴取を行った上で、委員の間で討議し、その後、FDA側からあらかじめ設定された委員会に対する質問事項についての討議、そして最後に議決を要する質問事項についての採決、という流れが通例のようです。多くのケースでひとつの案件の審議に8時から5時までの1日がかりの時間を設定して運営されています。

  会議の開催がアナウンスされると、一般からの意見聴取の時間帯で意見を述べたい人は事前にFDAに登録し、委員会の予定している案件に関して意見を述べることができます。また、会議は原則公開で開催され、委員が着席するコの字型のテーブルの後方に約200名程度の傍聴席が設けられており、傍聴するだけであれば事前に登録する必要も無く当日会場に足を運べば後ろで傍聴できます。また、プレゼンテーションで使用されるスライドの写し(白黒コピー)を入手することができます。ただし、傍聴者はロープが張られた線から先の委員のテーブルに近づくことはできません。

   討議の模様は録音とビデオ撮影が行われており、後に、委員会の議事要旨と委員の発言の議事録がFDAのweb上で公開されます。また、委員の議決は電子採決で一斉に行われ、その結果がスクリーンに映し出された後に、各委員から投票の理由が順番に述べられます。

  公開で開催される諮問委員会の特徴として、企業側もFDA側も十分な準備をして会議に臨んでおり、90分間のプレゼンテーションとは別に、委員からの追加の質問にも答えられるスライドを用意しています。また、午前中の委員からの質問に対して昼休みの1時間のあいだに追加の説明が用意されて午後一番に説明されることも多くあります。

  会議の進行の時間は厳守されており、各プレゼンテーションは決められた持ち時間できっちり終わります。企業側、FDA側、そして各委員も、発言は慎重に行っているようでした。丸一日掛けてあらかじめ設定された討議項目についての十分な議論を行うことで、企業側もFDA側も言うべきことは言ったうえで、委員会は審議を尽くしているという印象を受けました。

追記  FDAの新キャンパス

  FDAは既にCDERとCDRHがメリーランド州シルバースプリング市のホワイトオークキャンパス(住所は10903 New Hampshire Avenue, Silver Spring, MD)に移転していますが、キャンパス内の新たな棟の完成により、2010年4月から5月にかけて、国際部(OIP)をはじめとして本部(Office of Commissioner:OC)の各部門が順にホワイトオークに移転します。ただし、CBERのための実験室も含めた建物はまだこれからで、予定では移転は2012年と聞いています。動物用医薬品のCVMは今のところ移転の話は無いとのことです。

  これまでFDA本部が入っていたパークローンビルディング(Parklawn Building)は、メリーランド州ロックビル市にあり、ワシントンDCの地下鉄(Metro)のRed lineで北西に行ったツインブルック(Twinbrook)の駅から歩いて15分程度のところでしたが、ホワイトオークのキャンパスは同じRed lineでワシントンDC中心街から反対方向に北へ行ったシルバースプリング(Silver Spring)の駅からタクシーで20分程度のところにあります。

  朝夕の通勤時間帯はシルバースプリングからFDAキャンパス方面にバスが15分間隔で何本かあり、ツインブルックからホワイトオークへのシャトルも1時間半に1本くらいの頻度でありますが、路線バスは通勤時間帯を過ぎると近くのショッピングセンターへ行くバスが表通り(ニューハンプシャーアベニュー)を通っているくらいで、なかなか利用しにくいところです。特にメトロのフォートトッテン(Fort Totten)駅からホワイトオークショピングセンター行きのバスは時間がかかるなど、大変なのでおすすめできません。

  FDAも他の政府機関と同様に本館内のセキュリティーの管理が厳しくなっているので、特に外部から多くのゲストや傍聴者を呼ぶような会議は、シルバースプリング、ロックビル、ゲイサーズバーグ、カレッジパーク、ワシントンDC市内のホテル等の会議室で開催することが多い現状にあります。

以上