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国際関係業務

ワシントンDCメトロ便り 第5回 2010年12月

2010年12月27日
植村 展生

  2010年2月中旬から、米国東海岸のワシントンDC近郊(正確には、ワシントンDCから地下鉄のメトロでいけるメリーランド州ロックビル市)にある、USP(United States Pharmacopeia:米国薬局方)事務局(以下「USP」という)に、MHLW/PMDAのLiaison Officialとして派遣され、USPのVisiting Scientistとして米国薬局方の総則のチーム内に籍を置いております。

  10月27日付けの前号に引き続き、USPとFDAの活動の概要をお伝えします。

  なお、この便りは、USPに派遣されている植村がUSP,FDA等に関する情報を個人の立場でとりまとめたものであり、USP、FDA等の米国関係機関あるいは派遣元である厚生労働省(MHLW)、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の見解等を示すものではないことにご留意下さい。

  また、日本語版は英文版よりも多少言葉を補っていますので、同一の翻訳ではないことをご承知おきください。

第5回 ワシントンDCメトロ便り

目次

  1. USP本部の建物(ロックビル市)
  2. USP-NFの構成
  3. 医薬品各条の基準作成過程
  4. USPとFDAとの連携(その2)(これまでの具体例)
  5. 暫定継続予算の延長と財政調整法案
  6. FDAにおけるレギュラトリーサイエンス

1.USP本部の建物(ロックビル市)

  USPの本部は1968年にニューヨーク市から移転して以来、メリーランド州ロックビル市にあります。
  2008年にUSPは立て直した本部ビルの完成式を行いました。フィッシャーレーン(旧FDA本部パークローンビルの面している通り)とツインブルックパークウェイの道路の角(地下鉄レッドラインのツインブルック駅と旧FDA本部ビルとの中間)に位置し、6万9千平方フィートの既存のビルに隣接して建設された新しい15万6千平方フィートの本部ビルは、化学分析試験室、生物学的分析試験室、試験研究室のスペースと、会議室のセンターを有します。
  試験室スペースは、現在の技術と最先端の技術による試験機器をともに配備しており、新たな基準の開発とその同時にその基準を既存の基準と比較する科学的作業を行えるようになっています。
  一方、会議室のセンターは階段状の講堂と仕切を変えられる幾つかの会議室を備えています。講堂のガラスの外壁には世界地図が描かれ、USPの世界での活動と国際協力への貢献を象徴しています。
  また、1820年に設立されてほぼ200年を迎える機関にとっての新しい建物は、21世紀の技術とデザインと環境に配慮したコンセプトのもとに建設されました。
  同時に、地域や通りの景観にも特に注意が払われており、訪問者や近隣地域住民に感動を与える外観となっています。
  USPのこの本部ビルは、ロックビル市の地域団体から2010年の新建築デザイン記念賞が授与されました。

2.USP-NFの構成

  米国薬局方-国民医薬品集(USP-NF)は2種類の公的基準が合わさってひとつになった出版物ですが、米国薬局方(USP)には医薬品の有効成分と製剤の規格(医薬品各条)が掲載されている他、別のセクションに栄養補助食品の規格(各条)が掲載されています。一方、現在の国民医薬品集(NF)には、医薬品添加物の規格(各条)が掲載されています。

  2010年に再発行されたUSP33-NF28の構成は以下の通りです。

      <米国薬局方>

-  使命と序文
-  関係者
-  設立者条項
-  USP根拠条文
-  改正事項
-  通則
-  総則、一般試験法
-  試薬・試液、指示薬、標準液
-  換算表
-  栄養補助食品各条
-  医薬品各条
-  総合索引

      <国民医薬品集>

-  改正事項
-  添加剤リスト
-  添加剤各条

3.医薬品各条の基準作成過程

  USPは米国薬局方-国民医薬品集(USP-NF)の改訂(新規掲載と改正)を続けながら、公定書の出版物を毎年刊行していますが、医薬品各条の新たな掲載や改正は関係者の協力を得て以下の手順で進められています。

  1. 掲載申請の受理と、掲載作業の開始
  2. 担当者による技術的検討と各条の案文作成
  3. 案文の専門家委員会委員への提示、90日間のコメント募集期間を伴った薬局方フォーラム(PF)への掲載
  4. 寄せられたコメントについての担当者による検討と専門家委員会委員への提示
  5. 専門家委員会による討議と議決
  6. 専門家委員会の承認後、医薬品各条の公定書への掲載

  医薬品各条を担当する専門家委員会は、医薬品の定義、包装・保存・表示の必要事項、規格を承認するのみならず、各医薬品ごとの溶出試験、微生物学的試験(例:無菌試験、微生物限度試験、微生物エンドトキシン試験等)についても承認します。また、各条に関係するUSP標準品の使用についても承認します。
  USPは最近、欧州医薬品品質管理理事会(EDQM)との間で新たなパイロットスタディーを開始し、幾つかの医薬品各条とそれに関連する標準品について、欧州薬局方(EP)との調和を目指して、初期から共同で開発することに取り組みだしました。

  (注)
    USPの薬局方フォーラム(PF)は2011年1月3日から、無料のオンラインによる刊行となりました。

4.USPとFDAとの連携(その2)(これまでの具体例)

  USPがこれまでにFDAと共同してイニシアティブをとってきた事例を以下に紹介します。

(1)ビタミン諮問委員会と標準品プログラム

  USPは1924年に、タラの肝油から得られるビタミンAとビタミンDの含量の基準を作成し、いち早く第10改正米国薬局方にビタミンAの生物学的試験標準品を盛り込みました。この生物学的試験の採択を促進するために、現在のFDAの前身である化学局はUSPと共同してUSPの基準の要件に適合する標準品の供給を行いました。1930年に化学局はこの作業を中止し、標準品プログラムとしてその権限をすべてUSPに委譲しました。1932年にUSPの理事会(Board of Trustees)はビタミンの基準を作成するために専門家の意見を得るビタミン諮問委員会の設置を表明しました。その後USPはFDAの要請に従って、無菌製剤、ホルモン含有製品、抗貧血製剤の諮問委員会を設置しました。

(2)インスリン諮問委員会の設立

  トロント大学が持つインスリンの特許の期限(1941年のクリスマスイブ)が切れる前にインスリンの基準を急ぎ作成する必要性から、USPはインスリン諮問委員会を設置し、その委員長にFDAのハーバートO.カルベリー氏を起用しました。この委員会は、1941年12月1日にインスリン標準品を確立したことを発表しましたが、USPと米国医師会は、議会に対し、インスリンの検定を行う権限をFDAに付与するように求め、連邦食品医薬品化粧品法(FDCA)が改正されて全てのバッチについて出荷前にFDAの検定が必要とされ、また、USPの暫定的な改正の発表の中でインスリンの公式な基準が設定されました。

(3)ペニシリンの基準と抗生物質検定

  USP、FDA、NIH、軍需生産委員会は1943-44年にペニシリンの基準を設置するための会議を継続的に開催し、1944年3月までに小委員会においてUSPに基準を追加することを承認しました。また、1945年には連邦食品医薬品化粧品法(FDCA)が改正され、FDAによるペニシリンの検定が必要とされました。そして、その後の改正でこの検定は全ての抗生物質を対象に含むこととなりました。すなわち、抗生物質は各バッチごとにFDAの検定をパスして承認を受けなければならず、また、FDAの設定する規格(医薬品各条)に合致しなければなりませんでした。この工程はFDAにとっても製造企業にとっても、経費と時間がかかるものでした。

  USPは1987年までに、それまでFDAが作成していた抗生物質の標準品の作成権限を譲り受け、1982年にはFDAはバッチごとの検定を廃止して、公定書の規格に合致することと、FDAが示すGMPの規制と方針に適合することによることとしました。1997年にはFDA近代化法によって、抗生物質の規制制度の枠組みは他の医薬品と統合されました。

(4)医薬品の名称

  1961年に米国医師会・米国薬局方共同名称委員会が設立され、この委員会は1964年には米国薬局方、米国医師会、米国薬剤師会の参加によるUSAN評議会となりました。1967年にFDAも評議会の活動に参加して、医薬品の適切な一般名を連邦政府として選定する作業をUSAN評議会の活動に統合することとしました。

  USPは1985年に名称専門家委員会を設置し、USAN評議会と緊密に連携しながら、医薬品各条のタイトルを決定しています。現在の「名称・安全性・表示専門家委員会」は、USPとFDAがともに抱える相互の課題に対処することが期待されています。

(5)医薬品有害事象報告制度と薬剤過誤

  FDAは1970年に市場での医薬品不足を検知する活動を開始し、翌年には、この活動をUSP、米国病院薬剤師会を含めて拡大しました。1972年にFDAは医薬品有害事象報告制度(DPPR)へのUSPの一層の貢献のための契約を取り交わし、USPは医薬品の品不足、副作用、その他の有害事象の報告をとりまとめてきました。さらに、USPは1991年に薬剤過誤報告活動(MER)を設け、1993年にFDAがMedWatchのプログラムを開始して以降は、医薬品有害事象報告制度(DPPR)への参加を取りやめ、薬剤過誤の報告とその防止のための活動に注力することとなりました。ただし、2008年にUSPはこの薬剤過誤報告の活動を他の団体に委譲しています。

(6)公定書基準の強化策

  連邦議会技術評価局(OTA)の1974年の医薬品の生物学的同等性に関するレポートにより、公定書の設定のための機関をひとつ創設することが求められました。これに対応してFDAは、ひとつにまとめられた部門として医薬品局に公定書連携スタッフ部局を設置しました。連携スタッフはUSPとFDA各部局との意思疎通のリーダー的導き役として機能することとなりました。加えて1979年にFDAは公定書作業方針委員会を組織して、公定書の試験法の改善を支援したり、公定書医薬品各条評価・制定活動を通じて既存の医薬品各条の評価と新たな各条の設定の支援を行っています。

(7)金環とキャップシール

  塩化カリウム注射剤の誤投与による死亡事例が契機となって、USPは1991年に医薬品各条の表示規定を見直し、黒いキャップとシールをかぶせることと、「希釈すること。」という注意文を表示することを求めました。この新たな基準が公表されるとともに、FDAとUSPは合同の「注射剤表示の簡素化と改善に関する諮問委員会」を組織し、表示の簡素化によって医療過誤を削減する取り組みを始めました。

(8)共同研究開発協定(CRADA)

  1985年から2000年の間、FDAはUSPと共同で、約1500の標準品の候補物質の評価を行ってきました。2000年にUSPとFDAはこの活動を、米国で高品質の標準品が確保されることを目指して、正式な共同研究開発協定(CRADA)として位置づけました。

  2006年にUSPとFDAは別の共同研究開発協定として「物質登録システム」に関する協定を締結しました。これはFDAのクリティカルパスプログラム部とUSPとが、健康情報技術イニシアティブの推進策として独自の成分特定システム(UNII)を開発し、医薬品、生物製品、植物成分、食品、材料の一般名について、分子構造やその他の識別のための関係情報を基にして、特定し識別できるようにするものです。このシステム(UNII)での一般名はFDAの定める製品表示事項の中に盛り込まれる他、USPの医薬品名称辞典にも取り入れられています。

(9)溶出試験と生物学的同等性

  固形製剤の安定した溶出性が重要であるといわれてきたことを背景として、1970年にUSPは12種類の医薬品各条について、公的溶出試験を定めて公表しました。1970年代に研究者が試験に用いる装置によって溶出試験の結果に大きなばらつきが出ることを見出したことで、USPとFDAは共同して溶出試験の標準化に取り組むこととなりました。1975年にUSPは溶出試験の校正標準の開発を開始し、一方で、FDAは生物学的同等性と生物学的利用率に関する規制を詳細に検討して1977年にまとめ、「溶出試験法のガイダンス」として公表しました。

  1999年に溶出試験法と崩壊試験法は日米EU医薬品規制国際調和会議(ICH)の調和項目として取り上げられ、調和の図られたUSPの総則<701>崩壊試験と総則<711>溶出試験は2006年に公的基準となりました。翌年、FDAの新たな企業向けガイダンスドラフトが公表され、装置が溶出試験に関するGMP要件を満していることを前提に、校正用錠剤の使用(化学的校正)を機械的校正に置き換えることが提言されました。しかし、FDAの最終的なガイダンスでは、GMP対応のために、USP総則<711>溶出試験に記載された装置1又は装置2による溶出試験装置適合性試験の代替法として、機械的校正の手法を用いることができる旨が示されています。

(10)PDG-ICHにおける国際調和活動

  日米欧三薬局方調和検討会議(PDG)は1989年に組織され、薬局方の調和項目について、欧州薬局方(EP)の事務局であるEDQMと、日本薬局方(JP)の事務局であるMHLW/PMDA、そしてUSPの三者で討議されています。

  この翌年には、欧州、日本、米国の規制当局と医薬品産業団体とがメンバーとなった日米EU医薬品規制国際調和会議(ICH)が組織されました。2003年にICHは品質分野の課題として「Q4B:薬局方テキストのICH地域における相互利用」の検討を三極の規制側と医薬品産業側の団体代表とによってスタートさせ、薬局方の基準の調和と規制における相互利用に焦点を当てた活動を行ってきました。PDGはICHの中の組織ではありませんが、ICHと同時に会議を開催し、ICHの運営委員会(SC)に活動進捗状況の報告を続けてきました。そして、この活動における米国側のスタンスを合わせるために、USPとFDAは、Q4Bの課題に関するPDGとICHの活動について緊密な調整を行ってきました。

(11)グリセリンの規格

  2006年の初めに、グリセリンを含む製品へのジエチレングリコールの意図的な混入(いわゆる経済的汚染)によって、世界的に重大な健康被害が発生し、数多くの死者を出す事態となりました。2007年4月にUSPはFDAから、ジエチレングリコールの限度試験を盛り込んだグリセリンの規格を設定するようにレターで要請を受け、さらにFDAはジエチレングリコールを検出するグリセリンの試験に関する企業向けガイダンスを作成し、USPの設定した新たなグリセリン規格の確認試験を引用しました。USPの新しいグリセリン基準は2009年5月1日に発効しています。

(12)ヘパリン汚染

  2008年2月に、血液凝固防止に一般的に使われるヘパリン製剤の投与を受けた患者の中に数多くの副作用と150例近くの死亡例が報告されました。これに対応するためにヘパリン製品の一部のロットは回収されるとともに、FDAは公衆衛生勧告とその他関係情報を広く一般向けに公表しました。

  FDAはUSPと連絡を取り、汚染物質の検出法を確立し最適なものとすること、また、ヘパリンの規格(医薬品各条)と標準品を更新することを要請しました。USPはこれまでにFDAの協力を得て、ヘパリンの規格の第一段階及び第二段階の更新を完了し、現在(2010年12月時点)第三段階の更新に向けた作業を行っています。

5.暫定継続予算の延長と財政調整法案

  議会は11月の中間選挙の結果を踏まえて現メンバーでの2010年内の活動を再開し、12月3日までの暫定的な予算執行を認める継続予算の決議を12月18日まで再延長(さらに21日まで再々延長)する手続き(両院協議会報告の下院、上院での可決による法成立)をとりました。
  また、下院は12月8日に、2011会計年度の残りの期間(2011年9月30日まで)の裁量経費の歳出を基本的に2010会計年度と同レベルの枠とする財政調整のための法律案を212対206の多数で可決しました。
  この法律は、大統領要求に対して、増額項目と減額項目を示しており、メディケアや、上院で11月30日に可決された食品安全法関係(下院は同法の修正法を12月21日に可決)、FDAの食品・医薬品・医療機器の安全性確保のための査察官の増員などを含む一方で、国防省の予算要求や高速鉄道関係など各機関の予算要求の削減により、全体で当初の大統領要求を459億ドル下回る内容となっています。
   一方、上院では12月14日に、下院が可決した継続予算案を修正し、大統領要求を290億ドル下回る内容の財政調整法案が作成され、一旦、公表されました。
   この中の農業、FDA、地方開発関係予算の財政調整法案では、当該分野の総額は前年度を10億ドル以上下回る削減案となっていましたが、FDA予算に関しては、25億4100万ドルの予算が充当され、大統領要求を3700万ドル上回り、また、前年度実績からは1億9500万ドル上回る内容となっていました。
  しかし、この財政調整法案は可決の見通しが立たず取り下げられ、上院では、12月8日に下院が可決した財政調整の法律案を修正して、2011年3月4日までの政府の活動を続けるための継続予算の決議とした案が作成され、12月21日に上院と下院でそれぞれ可決されました。

6.FDAにおけるレギュラトリーサイエンス

  FDAは公衆衛生と安全性の確保・増進に向けて、関係機関と協力しながら、いわゆる「レギュラトリーサイエンス」の視点を持って活動しています。
  FDAはレギュラトリーサイエンスを、「FDAが規制する製品の安全性、有効性、品質、機能を評価するための新たな手段、基準、手法を開発する科学」と定義付けています。
  また、レギュラトリーサイエンスの対象とする分野とその成果は、評価手段そのものとそれを開発する際に得られた知識の両方を含むものとされています。
  すなわち、レギュラトリーサイエンスの実施によって、評価の手段、方法、モデル、基準、ガイダンスが開発され、評価されて提供されることになります。
  このように、レギュラトリーサイエンスは、基礎科学(原理の証明)の学問と、実際に患者に使用され、あるいは公衆衛生の向上に利用される製品との間のギャップを橋渡しすることに寄与する科学と言えます。

  FDAが現時点(2011会計年度)でレギュラトリーサイエンスの重点として掲げている7つの分野は以下のとおりです。

1) 患者への新たな治療法の提供促進
2) 小児の健康増進
3) 新興感染症及びテロへの対策
4) 情報科学を通じた安全性と健康の増進
5) 食品供給の安全確保
6) 安全性試験法の近代化
7) タバコ規制への挑戦
また重点とされている主な活動テーマを例示すると、以下のとおりです。

-  個別化医療、診断、バイオマーカー、イメージング、革新的臨床試験デザイン、多剤・多施設介入試験
-  世界規模の疾病、新興疾病、パンデミック、国家安全保障のための製品開発
-  新たな脅威に対する迅速な対応と同時利用のための基盤技術開発
-  糖尿病、心疾患、神経疾患の新たな治療法としての再生医療
-  新たな時代の毒性学、製品解析、病原体・汚染物質の迅速検出法、環境評価、化学物質危険度評価
-  医療データ・公衆衛生データを用いた安全性モニター
-  科学をサポートし、イノベーションを推進するリーダーシップ;すなわち、センター横断的作業グループ、調整機能、科学的ガイダンス、資金と施設の共有、科学的コンピューター計算
-  大学・NIH等との科学的交流、共同利用の契約を通じた卓越した専門的人材の開発

  こうした活動を実践するための主な方法としては、

-  フェローシッププログラムによる卓越した科学者の採用
-  特定課題研究資金、主任研究者研究資金
-  FDAとNIHの研究協力
-  レギュラトリーサイエンス研究拠点、大学との契約、NIH,CDC,NIST,NTPとの共同などを通じた研究協力、共同研究
-  内外のアドバイザーや一般からの開かれた意見聴取

  が挙げられています。

  そして、FDAはレギュラトリーサイエンスの推進のための4つの戦略的枠組みとその具体策を掲げています。

1) 科学技術イノベーションを支援するリーダーシップ、調整機能、戦略計画、透明性

-  FDA内部での科学技術イノベーション戦略諮問協議会
-  FDA科学諮問委員会

2) FDA内及び外部との協力による使命遂行に不可欠な応用研究の支援

-  FDAとNIHが創設した合同リーダーシップ協議会
-  学術会におけるレギュラトリーサイエンス研究拠点
-  他の政府機関との戦略的協力、協調
-  クリティカルパスイニシアティブへの重点的支援
-  レーガン・ユードール基金

3) 卓越した科学と専門性の育成、教育機関としての機能

-  FDAスタッフの先端科学技術への関与、継続的教育と専門性開発
-  学会、政府機関及び他国の規制当局との科学的人材交流プログラム

4) 傑出した科学者の採用と確保

-  新たな技術に秀でた独立した立場の科学的専門家の研究審査官への採用と支援
-  業績を達成し成果を得たFDA研究者への功績表彰
-  FDA専門家医師プログラム(大学学部とFDA職員との掛け持ちのパートタイム)

  FDAが行ってきたこれまでの活動及びこれから成果を出そうとする活動の具体例として、以下の活動が紹介されています。

1) 患者への新たな治療法の提供促進

-  幹細胞解析法(幹細胞のタイプの判別試験法、判別基準)
-  がんの個別化医療(I-SPY2 TRIAL)
-  安全な疼痛治療(乱用・誤用の低減)
-  結核のワクチン、治療薬、診断薬(薬剤耐性結核菌への対応を含む)
-  ジェネリック医薬品の利用拡大(吸入剤、局所投与剤等の生物学的同等性試験の開発。)
-  製造工程と製品品質の管理の近代化(製造工程設計:QbD)

2) 小児の健康増進

-  抗うつ薬の使用による青少年の自殺への対策
-  小児、乳幼児に対する鎮静剤、麻酔薬の安全性確保
-  食品の微生物汚染の迅速簡便検査法
-  青少年のタバコ使用防止
-  糖尿病対策
-  食品中の毒素による危害の防止

3) 新興感染症及びテロへの対策

-  供給血液の汚染防止(ウェストナイルウイルス対策)
-  ワクチンの効果予測モデルの開発、新しいバイオマーカーの開発
-  新たな製品開発基盤技術(DNAワクチン、遺伝子組換えタンパク等)
-  迅速で高感度、高処理能な同定試験、無菌試験
-  医薬品・ワクチンの安定性向上
-  限られたデータでの統計的効果判定手法
-  培養細胞又はコンピューター利用による安全性・有効性の評価
-  緊急時の新たな即時診断
-  新剤形、新投与法(例:針なしシステム)
-  新興感染症データベース(リアルタイム評価)
-  リスク評価及びリスクコミュニケーションの強化

4) 情報科学を通じた安全性と健康の増進

-  臨床試験データの電子的伝達の標準化(CDISC)
-  医療データを用いたリアルタイムの安全性データモニタリング
-  データマイニングと科学技術計算

5) 食品供給の安全確保

-  食品安全性化学試験法の開発(メキシコ湾油流出事故対策)
-  O-157、サルモネラ、リステリア等の効果的検出のための検体採取法、試験法、解析法の開発
-  食品供給でのサルモネラ分析
-  微生物汚染による危害防止
-  食中毒対策
-  毒素の管理(食品製造・加工過程)
-  食中毒原因菌の薬剤耐性モニター

6) 安全性試験法の近代化

-  前臨床試験での新たな腎臓バイオマーカー(FDA,EMA,アカデミア、産業界のコンソーシアム)
-  細胞培養法、ゲノミクスマイクロアレー、プロテオミクス、メタボロミクス
-  インビトロ、コンピューターベースの毒性モデルシステム

7) タバコ規制への挑戦

-  タバコ関連の病因、疾病のバイオマーカー開発
-  タバコの製品基準
-  タバコの広告・販売規制


また、FDAは2011会計年度予算要求に以下の科学研究関係予算を盛り込みました。

-  科学技術イノベーションリーダーシップとその支援
-  ナノテクノロジーの審査と安全確保
-  幹細胞イニシアティブ
-  クリティカルパス
-  新規技術応用医薬品、複合製品、バイオシミラーの審査基準
-  安全利用のための動物バイオテクノロジー研究の科学的評価
-  公衆衛生向上のための栄養学
-  国家医療機器登録制度

  これらの活動状況は、FDAの科学諮問委員会(年4回開催)で報告されるとともに、2010年10月に刊行された「公衆衛生のためのレギュラトリーサイエンスの推進」という報告書に記述されています。

以上