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国際関係業務

Canary Wharf便り~欧州医薬品庁(EMA)にて~第3回 2010年5月

2010年5月21日
林  憲 一

 2009年11月下旬から、ロンドンにあるEuropean Medicines Agency(以下Agencyという)にMHLW/PMDAのLiaison Officialとして派遣され、長官オフィス(Office of the Executive Director)に籍を置くこととなりました。この機会に、Agencyに関する情報や話題について、Canary Wharf便りと題して報告したいと思います。

 なお、このCanary Wharf便りは、Agencyに派遣されている林がAgencyに関する情報を個人の立場でまとめたもので、Agencyあるいは派遣元である厚生労働省(MHLW)、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の見解等を示すものではないことにご留意下さい。

European Medicines Agencyの組織(続き)

 前回、ヒト用医薬品開発/評価ユニットと患者健康保護ユニットは、それまで承認の前後で分けられていたヒト用医薬品の2つのユニットが再編されてできたものであることをご紹介しましたが、この組織再編の背景には大きく分けて3つの考えがあったようです。

 1つはガバナンスの点からAgencyの業務プロセスを継続的に改善し、2010年までのロード・マップ(PMDAの中期計画に相当)の一環として手続きを一層効率化しよう、医薬品を承認の前後で別々のユニットが担当する形を改めて、ライフサイクルを通じて一貫して管理しようという発想。2つ目は申請件数が増加しAgencyの規模が大きくなってシステムが複雑になってきたことに対応するとともに、関係者の役割と責任の強化を図ろうという意図。3つ目は将来的な動向に備えて薬効群によるセクション構成を整備し、Agencyがこれまで築いてきたネットワークとの連携や国際協力を更に推進しようという意識です。

 再編の検討は内部的には2007年にまずヒト用医薬品ユニットの業務プロセスの改善から始まり、その後Agencyの他の部門にも拡大されました。その過程でAgency職員の意識調査を通じたフィードバックや関係者からのフィード・バックなどが反映され、2008-2009年にはさらに範囲を拡げて意見を聴く機会が設けられました。そして新しい組織形態に対する合意が得られてからは実施に向けた準備が進められ、2009年9月初めに再編に伴う職員の再配置が始まり、2009年12月8日から完全施行されました。

 今回の再編における重要な変更点は、「責任」の面からは前回報告したExecutive Director → Head of Unit → Heads of Sector → Section Headsの4段階から成るヒエラルキー構造を明確化し、各プロセスの責任者(Process ownershipという言い方がされています)をはっきりさせたこと、各品目の担当チーム(Product Team)におけるProduct Team Leader(PTL)の役割と責任を強化したことが挙げられます。

 また「組織」の面からは、今回の再編は、程度の差はあれ、全てのユニットとDirectorateに影響を与えるものでしたが、ユニットを新たに増やすことはせず、ヒト用医薬品ユニットの変更は主に業務のプロセスと手続きの合理化に焦点を当てて行われたと言えます。

 もう少し具体的に見ていくと、ヒト用医薬品開発/評価ユニットに関しては、それまで旧Post-authorisation UnitのPost-authorisation safety and efficacy of medicines (PASE)に属していたPTLをPre-authorisation UnitのSafety and efficacy of medicinesと一緒にして、承認前の手続きからMarketing Authorisation後の承認事項の一部変更等までを同じラポター、同じ担当者が見ることにより、製品のライフサイクルを通じて捉えるやり方を可能としたこと、新Safety and Efficacy Sectorを5つの薬効群別のセクション構成とし、各セクションとCHMP等との連携を重視する組織編成としたこと、医薬品の品質セクターに2つあったバイオロジカル・グループを1つに統合したこと、ナノメディシン等の新たな科学(emerging science)に関するプロジェクトをサポートするセクションを新たに設けたこと、情報の受け渡しとネットワーク機能の強化を図ったこと、SME office(中小ベンチャー企業のサポート部門)を含む既存のグループを全てセクションとして取り込んだことが主な変更点です。

 一方、患者健康保護ユニットの方は、ファーマコビジランスとリスクマネジメント、コンプライアンスと査察、薬事規制、CHMP、CAT等のサポート、欧州共同体のArbitrations(注:相互承認や非中央審査の過程で特定の医薬品について加盟国間に意見の相違が生じた場合にCHMPがそれを仲裁する手続き)やReferrals(注:公衆衛生上の懸念その他共同体の利益が脅かされるような事態が生じた場合にCHMPの意見を聴く手続き)、医薬品情報等の事項を担当し、これらの事項に関してヒト用医薬品開発/評価ユニットと一層密接に連携していくこととなりました。

 以上がヒト用医薬品ユニットの再編の概要です。今回の再編ではヒト用医薬品ユニット以外にも、それまで動物用医薬品/査察(Veterinary Medicines and Inspection)ユニットにあった査察部門を患者健康保護ユニットに移し、動物用医薬品セクターと品目データ管理セクターをまとめて1つのユニットとするなどの改変が行われていますので、前回紹介できなかったこれらのユニットについても簡単に紹介しておきます。

 動物用医薬品/品目データ管理(Veterinary Medicines and Product Data Management)ユニットの動物用医薬品セクターは、Agencyにおける動物用医薬品に関する一切の活動を担っています。具体的には、動物用医薬品の販売承認のための科学的評価、承認の前後を通じた対面助言から販売承認、承認後の一部変更や剤型追加等における科学的評価のコーディネーションと規制面からのサポート、動物用医薬品の使用に伴う動物、動物製品の消費者、動物用医薬品の使用者、環境等に対する安全性の評価に係る活動のコーディネーション、動物用医薬品の市販後安全対策(Pharmacovigilance)、CVMP等の委員会の事務局機能、欧州委員会との連携、使用される機会が少なく市場の限られた医薬品に対する科学的側面からのサポート等の業務が含まれます。

 一方、品目データ管理セクターは、Agencyのコア業務の効果や効率性を改善し、必要な情報へのアクセスが円滑に行えるよう、品目と申請のデータを管理し、Agency内に提供することはもちろん、透明性確保の観点から、情報公開を通じて一般の人たちのアクセスについてもサポートしています。

 情報技術ユニット(Information and Communications Technology)は、Agencyスタッフや各科学委員会(Scientific Committee)、Working Party、Scientific Advisory Groupのメンバーが、ITを効率的・効果的に用いて業務が行えるよう、Agencyと他の欧州機関、各国規制当局、その他の関係者を電子的に結んだ各種ネットワーク(EudraLink、EudraCT、EudraVigilance、EudraPharm、EudraGMP等の名称は皆さんも耳にされたことがあると思います。Eudraというのは、European Union Drug Regulatory Authoritiesの略です)を構築し、EU Telematicsという欧州全体の電子情報戦略に沿って電子情報を中心に必要なサポートを提供しています。例えば、申請者との申請書提出前の会合の段階からのAgency内のチームによる申請関連の資料管理のサポート、承認申請前後を通じたデータベースの構築、市販後のコミットメントのフォローアップ、図書館サービスや翻訳サービスの提供、印刷物の発行などです。

 ところで規則(EC)No 726/2004第56条には、Agencyの組織としてこれまで紹介してきたDirectorate、ユニット、セクター、セクション以外にマネジメント・ボードと6つの科学委員会が含まれることが規定されています。

 マネジメント・ボード(PMDAの運営評議会に相当)は35名のメンバーから構成され、その内訳は27のEU加盟国から1名ずつ、欧州委員会から2名、欧州議会から2名、患者団体から2名、医師団体から1名、獣医師団体から1名となっています。また上記メンバー以外にも、EEA-EFTA加盟国、すなわちアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーから1名ずつがオブザーバー参加しています。

 各メンバーは、マネジメントに関する専門知識やヒト用または動物用医薬品の分野における経験、最高レベルの専門性と幅広い知見、欧州の地理的バランスなどを考慮して選ばれています。加盟国、欧州委員会、欧州議会の代表はそれぞれの国・組織によって直接選ばれるのに対し、患者、医師、獣医師団体の代表は、欧州議会に諮られた上で閣僚理事会が任命します。なお、加盟国や欧州委員会の代表については、予め指名された代理人の出席が認められ、メンバーの任期は3年で再選が認められています。

 マネジメント・ボードは、Agencyのガバナンス・ボディーとして、Agencyの予算の採択、企画の審議、長官の指名、Agencyの業績評価などを行う権限を有しています。審議される事項は幅広く、法的拘束力を持ったルールの採択や、科学的ネットワークの戦略的方向性の設定、欧州連合の負担金(Contribution:日本の独立行政法人の運営費交付金に相当)の使途の確認など多岐にわたります。

 ボードではまた、手数料規則の実施に関して法的拘束力のあるルールの策定やAgencyの財政規則とその実施ルールの採択を行い、年次決算に対する意見を述べます。さらに、 Agencyの予算担当官や内部監査部と緊密に協力してAgencyの活動全体を監督し、長官から提出された年間活動報告の評価や予算執行の監督・報告を行うなど、EU財政当局が長官に対してAgencyの予算執行の責務を果たしたことを認める役割も果たしています。

 その他、Agencyの科学委員会(Scientific Committee)の諸手続やメンバー構成について諮問を受けたり、Agency職員やEU加盟国のメンバーに適用される規制やルールの運用に必要な実施規定を採択したりすることも、ボードの責務とされています。

欧州オーファン規制の10年 カンファレンス

 欧州のオーファン規制が施行から10周年を迎えたことを記念して、2010年5月3-4日の2日間にわたりAgency内で約150名が参加して標記カンファレンスが開かれました。目的は、患者、研究者、産業界、規制当局が一堂に会して欧州のオーファンドラッグ開発に関わる経験を共有し、将来に向けた課題を明らかにすることでした。

 欧州のオーファンドラッグ規制は、日本などよりも遅く2000年4月に規則(EC)No 141/2000により開始されました(ちなみに同規則前文の説明条項の中に、オーファンドラッグの開発振興策が米国では1983年、日本では1993年から実施されていることが出てきます)。その趣旨として、希少疾病患者に対して、他の疾患の患者と同様、質の高い治療を提供すること、希少疾病用医薬品の研究開発および上市に対しインセンティブを与えること、(そのための)共同体手続きを定めること、の3点が挙げられています。

 同規則には、指定のクライテリアとして、希少性、重篤性、代替治療法の3つの観点から、生命に関わるかまたは慢性消耗性(chronically debilitating)疾患の診断・予防または治療に用いることを目的とする医薬品であって共同体内の患者数が10,000人中5人以下であるもの;生命に関わるか、重篤な消耗性(seriously debilitating)、または重篤かつ慢性(serious and chronic)の疾患の診断・予防または治療に用いることを目的とする医薬品であって、インセンティブなしには開発に必要な投資に見合うだけの十分な回収が期待できないと考えられるもの;診断・予防または治療のための満足すべき方法で共同体内で承認されたものが他にないか、またはあっても当該希少疾病に対して著しいベネフィットを有するもの、の3つが定められています。

 インセンティブには、試験計画作成の補助(protocol assistance)、欧州委員会からのContributionを原資とした各種手数料(protocol assistance・承認前査察・製造販売承認等)の減額または免除、製造販売承認後10年間のEU域内における排他的販売権、臨床試験に対するEUおよび加盟国からの研究費補助、その他各国レベルでのインセンティブがありますが、これらは最初から全部が揃っていた訳ではなく、継続的に整備されてきたようです。

 また、米国FDAとの間で、米EU双方にオーファン指定の申請をする場合の申請書の様式を共通化したり(注:米国と欧州では指定の要件が若干異なるため、添付資料まで共通化されているわけではない)、指定後に開発者がFDAおよびAgencyに毎年提出することとされている指定品目の開発状況に関する年次報告書を、米EU双方で指定された品目については同一のものでよいとするなどの国際協力も進められています。

 指定申請の審査にはCommittee for Orphan Medicinal Products (COMP:コンプと発音します)が関わり、同委員会の勧告に従って欧州委員会により指定等の法的拘束力を持った決定がなされます。これまで2000年4月から2010年4月までの10年間に、1100を超える品目の申請があり、そのうち約720品目が欧州委員会からオーファン指定され、62品目がEUにおける販売承認を取得しています。

 カンファレンスでは、Agencyのこれまでのオーファンドラッグ規制は成功であったと評価された上で、それでも患者から見ればまだunmet medical needsがあること、承認されたオーファンドラッグは高額のものが多く、全ての希少疾病患者がその恩恵を享受できているわけではないことなどの課題が明らかにされました。カンファレンスのpress release及び資料はAgencyのウェブサイトhttp://www.ema.europa.eu/pdfs/general/direct/pr/29156010en.pdfで見ることができますが、我が国のオーファン規制にとっても大変参考になる内容だと思います。

<訂正>
第2回Canary Wharf便りの「2.欧州委員会の動き」で「新総局長」とあるのは「新コミッショナー」の誤りでした。お詫びして訂正します。