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国際関係業務

Canary Wharf便り~欧州医薬品庁(EMA)にて~第2回 2010年3月

2010年3月16日
林  憲 一

 2009年11月下旬から、ロンドンにあるEuropean Medicines Agency(以下Agencyという)にMHLW/PMDAのLiaison Officialとして派遣され、長官オフィス(Office of the Executive Director)に籍を置くこととなりました。この機会に、Agencyに関する情報や話題について、Canary Wharf便りと題して報告したいと思います。

 なお、このCanary Wharf便りは、Agencyに派遣されている林がAgencyに関する情報を個人の立場でまとめたもので、Agencyあるいは派遣元である厚生労働省(MHLW)、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の見解等を示すものではないことにご留意下さい。

European Medicines Agencyの組織

 第2回目の今回は、Agencyの組織構成について解説したいと思います。組織図(Organisation Chart)はAgencyのウェブサイトで見ることができますが、  長官(Executive Director)-ユニット(図の緑色の枠で囲まれた部分)-セクター(青色の枠で囲まれた部分)-セクション(茶色の枠で囲まれた部分)の4つの階層から構成され、それぞれユニット長(Heads of Unit)、セクター長(Heads of Sector)、セクション長(Section Heads)によって統括されています。長官のすぐ下にはDirectorateと総称される長官直属の4つの部門(service)があり、このうち長官オフィス、法務部(Legal Service)、内部監査部(Internal Audit)の3つは上述の階層でいえばセクターに相当しますが、上級医官(Senior Medical Officer)だけは特定のポスト/機能を表しています。

 European Medicines AgencyのトップとしてAgency全体を率いる長官は、欧州委員会(the European Commission)からの提案に基づきマネジメント・ボード(PMDAの運営評議会に相当)より任命され、Agencyを法的に代表し、予算、スタッフ、科学的事項等に関してAgencyが行うあらゆる決定に対し、最終的な責任を負うこととされています。皆さんもご存知のThomas Lonngren現長官(スウェーデン)は2001年に就任し、2005年10月に一度再任されて現在に至っています。長官の任務は、規則(EC)No 726/2004に定められ、Agencyの日常的な運営管理、各種委員会活動に必要なリソースの管理、委員会意見の採択期限の遵守、Agencyの歳入・歳出見積書の作成と予算の執行、スタッフに関するあらゆる事項、マネジメント・ボードへの事務局機能の提供などをとり行うこととされています。またこの他にAgencyの前年の活動をまとめた報告書(annual report)と翌年の業務計画(working plan)を作成してマネジメント・ボードに提出することも長官の役割とされています。

 Directorateの各部署は、長官の秘書機能、Agency全体の業務計画や年間報告書の作成機能、他の機関や国際案件に関する窓口機能、広報、法務、データ保護、内部監査、品質管理等のAgency横断的な支援機能を担っています。

 私が現在所属している長官オフィスもDirectorateに属し、長官の下でコーポレート・ガバナンス、欧州委員会等の他機関との連絡調整、米国・日本・カナダ等との守秘義務協定に基づく国際的な連絡調整、EUへの新規加盟国に対する受入準備、広報・メディア対応等の業務を行っています。また長官に代わってDirectorate全体の(そしてときにはAgency横断的な)活動をリードあるいはコーディネートする役目も果たしています。

 法務部は、法律アドバイザーとしてAgency全体および各委員会の運営、医薬品の許可・監督に係る事項、さらには長官の決定等に対して法的観点からの助言を行うほか、データ保護、調達に関する業務も行っています。内部監査部は、欧州委員会の内部監査部門等と連携してAgencyに対する業務監査を実施し、改善点があればそれを長官その他に助言します。上級医官は、Agencyおよびヒト用医薬品委員会(CHMP)等の各委員会と外部団体、とりわけ学会等との間の調整や長官への科学的助言を行うことを主な任務としています。

 Directorateとは別に長官の下にある5つのユニットは左から順に、ヒト用医薬品開発/評価(Human Medicines Development and Evaluation)、患者健康保護(Patient Health Protection)、動物用医薬品/品目データ管理(Veterinary Medicines and Product Data Management)、情報/コミュニケーション技術(Information and Communications Technology)、総務(Administration)と呼ばれています。ヒト用医薬品開発/評価と患者健康保護は、これまで承認の前と後とで分けられていたヒト用医薬品の2つのユニットが、昨年9月1日の組織再編により新たな体制に改められたものです(公式には昨年12月の新コーポレート・アイデンティティ発表時に発足(第1回Canary Wharf便り参照)。この組織再編については、いずれ稿を改めて詳しく取り上げる予定)。これらのユニットの下には、2~4つのセクターが置かれ、大部分のセクターはさらにいくつかのセクションに分かれています。マネジメント・クラスのうち長官およびユニット長から構成されるメンバーは特にシニア・マネジメント・チームと呼ばれ、Agencyにおける種々の重要事項の決定に関与しています。

 5つのユニットのうち、ヒト用医薬品開発/評価ユニットはその名の通り、ヒト用医薬品の開発段階におけるScientific Advise(PMDAの対面助言に相当)から製品のライフサイクルを通じた医薬品の安全性、有効性、品質の確保まで幅広い業務を行っています。小児用医薬品、オーファン・ドラッグ、遺伝子治療薬や再生医療、ナノメディシン等の先進医療に対する規制もこの中に含まれます。このユニットはCHMPの下に設けられた各Working Party(安全性、有効性、品質、pharmacovigilance、biologics等のテーマ毎に設置)、Scientific Advisory Group(薬効群毎に設置され、特定の品目に係る事項を検討するためテンポラリーに開催)、オーファン医薬品委員会(COMP)、小児委員会(PDCO)に事務局機能を提供するとともに、医薬品をめぐる革新的な技術に関連した、欧州あるいは国際レベルの活動をサポートすることにも貢献しています。また、中小ベンチャー企業をサポートするSmall and Medium-sized Enterprises (SME) Officeも、このユニットにあって医薬品開発促進のための種々の支援活動を行っています。

 一方、患者健康保護ユニットは、ヒト用医薬品の製品ライフサイクルのうち、安全対策(pharmacovigilance)およびリスク・マネジメントを通じた患者健康保護のための活動に当たっています。ヒト用医薬品のベネフィット/リスク評価を管理するほか、CHMP、生薬委員会(HMPC)、先進医療委員会(CAT)、Working Party等に事務局機能を提供し、これらの活動に参加する専門家やAgencyスタッフを規制・手続き両面からサポートしています。医薬品情報の品質管理および加盟国の規制当局と協力して患者や医療関係者向けにタイムリーかつ質の高い情報提供を行うこともこのユニットの役割です。さらに、GCP、GMP、GLPの適合性確認やpharmacovigilanceに必要なコーディネート活動にも関わり、医薬品の品質上の問題やカウンターフィット薬(counterfeit)に対し、EU域内の規制当局をコーディネートして中央審査方式で承認された医薬品の収去や試験を行うこともあります。WHOプログラムに基づく医薬品輸出証明等の発行もこのユニットの仕事です。

 組織図の一番右にある総務ユニットは、その業務の内容からDirectorateと特に深い関係があります。ここはAgencyの予算、スタッフの採用や人事管理、会議のサポート、インフラ面のサービス等の責務を担っています。予算の要求や執行は、欧州委員会だけでなく欧州議会(the European Parliament)や閣僚理事会(the Council)(この2つはEU内で予算承認の権限を有することから特に”Budgetary Authority”と総称されています)、欧州会計監査院(the Court of Auditors)なども関係してくるため、これらの機関とも定期的に連絡をとりながら業務を進めています。

 規則(EC)No 726/2004には、Agencyは上述の長官、Directorate、ユニット、セクター、セクションのほか、マネジメント・ボードおよび各委員会から構成されることが規定されています。そこで次回は残りのユニットとともにマネジメント・ボードと各委員会について解説したいと思います。

欧州委員会の動き

 欧州委員会はEUの執行機関に相当し、委員長を含め27の加盟国から1人ずつ選ばれる委員がthe College of Commissionerと呼ばれる合議体を構成しています。本稿の第1回目でも説明したように、Agencyは医薬品の評価に関し科学的クライテリアに基づく意見を採択し、欧州委員会はその意見に基づき行政的な決定を下すという関係にあります。

 先ごろ日本のメディアでも報道されていましたが、欧州議会は本年2月9日にJose Manuel Barroso委員長(ポルトガル)率いる2期目の欧州委員会を、賛成488、反対137、棄権72で選出しました。新体制に対する表決は、Barroso委員長を含め27人の委員で構成される合議体全体を一括して承認する形で行われました。この欧州議会の承認を受けて欧州理事会(閣僚理事会とは別の機関)が新体制を任命しています。新委員の任期は2010年2月10日から2014年10月31日までで、この間各政策分野を担当することになります。

 今回の改選でAgencyとの関係で最も注目されるのは、従来、産業・企業分野を担当するDG Enterprise and Industry(DG-ENTER)のConsumer goodsに分類されていたPharmaceutical productsが保健・消費者政策を任務とするDG Health and Consumers(DG-SANCO)に移され、それに伴いAgencyの所管がDG-ENTERからDG-SANCOに変更されたことです。

 第1回目の報告でも紹介したように、これまでAgencyはDG-ENTERの下で、欧州の患者の健康保護を第一の目標に置きつつも、小児用医薬品やオーファン・ドラッグの開発促進策、中小ベンチャー企業への支援策の拡充、再生医療やナノメディシン等の新技術への対応等を積極的に進め、欧州医薬品産業の強化に必要な対策にも力を入れてきました。その背景にはこれまでこの分野の政策立案を行ってきたDG-ENTERの意向の影響も少なからずあったものと推測されます。

 DG-SANCOの総局長(Director General)にはJohn Dalli氏(マルタ共和国)が新たに就任しました。AgencyはこれまでもDG-ENTERだけでなくDG-SANCOとも連携して業務を行ってきていることから、所管が変わっても委員会との関係がすぐに変化することはないだろうというのが現時点の大方の見方です。しかしながら、Dalli総局長およびDG-SANCOによってこれから5年間に打ち出されるであろう健康安全や消費者保護政策の中で医薬品産業に対してどういうスタンスがとられるかによっては、Agencyのあり方にもこれまでと違った影響を与えることがあるかもしれません。その意味では、Dalli総局長の就任に伴う長期的な影響の有無に今後注目していく必要がありそうです。