独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
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添付文書、患者向医薬品ガイド、
承認情報等の情報は、
製品毎の検索ボタンをクリックしてください。

安全対策業務

医薬品・医療機器等安全性情報 No.235

目次

  1. 輸液セット及び輸血セットの滴数の統一について
  2. 妊娠と薬情報センター事業について
  3. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構の「医薬品医療機器情報提供ホームページ」で提供している安全性情報について
  4. 市販直後調査の対象品目一覧

 

(参考資料)

 
  1. リン酸オセルタミビルについて
  2. ファーマコゲノミクスの展望
    (ワルファリンの治療に関連する遺伝子多型)

 

 この医薬品・医療機器等安全性情報は,厚生労働省において収集された副作用等の情報をもとに,医薬品・医療機器等のより安全な使用に役立てていただくために,医療関係者に対して情報提供されるものです。

平成19年(2007年)4月
厚生労働省医薬食品局


【情報の概要】
No. 医薬品等 対策 情報の概要
1 輸液セット及び輸血セットの滴数の統一について     厚生労働省では,これまで輸液セット及び輸血セット並びに輸液ポンプの1mLあたりの滴数の規格の統一化を図り,1mLあたりの滴数の規格を20滴又は60滴の2規格とし,輸液ポンプの流量設定の変更等については,当該輸液ポンプの製造販売業者に相談されるよう医療機関等に周知を図っているところである。ついては,本件に係るこれまでの経緯,変更の概要等について紹介する。
2 妊娠と薬情報センター事業について     厚生労働省では,平成17年10月から国立成育医療センターに「妊娠と薬情報センター」を設置し,相談業務及び調査業務を実施しているところであるが,本年4月から対象地域を全国に拡大したので,これまでの経緯,本事業の概要等について紹介する。
3 独立行政法人医薬品医療機器総合機構の「医薬品医療機器情報提供ホームページ」で提供している安全性情報について     医薬品・医療機器等の安全な使用を推進するため,医薬品医療機器情報提供ホームページでは,医薬品や医療機器の添付文書情報をはじめ様々な安全性情報を掲載している。特に,平成16年4月の総合機構発足以降,多くのコンテンツの掲載を開始したので,これまでの経緯等とその主なものについて紹介する。
4 市販直後調査対象品目    平成19年4月1日現在,市販直後調査の対象品目一覧を紹介する。

(緊):緊急安全性情報の配布 (使):使用上の注意の改訂 (症):症例の紹介




 

厚生労働大臣への副作用等報告は,医薬関係者の業務です。

 医師,歯科医師,薬剤師等の医薬関係者は,医薬品や医療機器による副作用,感染症,不具合を知ったときは,直接又は当該医薬品等の製造販売業者を通じて厚生労働大臣へ報告してください。
 なお,薬種商販売業や配置販売業の従事者も医薬関係者として,副作用等につき,報告することが求められています。
 

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輸液セット及び輸血セットの滴数の統一について

1.はじめに

 厚生労働省では,輸液セット及び輸血セット(以下,「輸液セット等」という。)並びに輸液ポンプの1mLあたりの滴数の規格について統一化を図るため,輸液セット等については平成17年3月25日付厚生労働省告示第112号「薬事法第23条の2第1項の規定により厚生労働大臣が基準を定めて指定する医療機器」,輸液ポンプについては平成17年11月24日付薬食発第1124002号厚生労働省医薬食品局長通知「輸液ポンプの承認基準の制定について」により,いずれも1mLあたりの滴数の規格を20滴又は60滴の2規格としたところである(経過措置期間平成21年3月31日まで)。
 また,これに伴い,医療機関等の対応については,平成17年11月24日付医政総発第1124001号・薬食安発第1124003号厚生労働省医政局総務課長・医薬食品局安全対策課長通知「輸液ポンプの承認基準の制定等に伴う医療機関等の対応について」により,輸液ポンプの流量設定の変更等については,当該輸液ポンプの製造販売業者に相談されるよう医療機関等へ周知を図っているところである。
 ついては,本件に係るこれまでの経緯,変更の概要等についてお知らせし,医療安全の確保の観点から医療関係者への周知を図るものである。

 

2.経緯

 輸液セット等については,薬事法第23条の2第1項に基づき,厚生労働大臣が定めた基準に適合するものには認証が与えられ,製造販売することができるが,輸液セット等の1mLあたりの滴数について,国内ではこれまでに統一された規格がなかった。そのため,1mLあたりの滴数は15滴,19滴,20滴,60滴(微量輸液用)の4種類の輸液セットが販売され,輸血セットは15滴が多く使用されていた。また,輸液ポンプには点滴口サイズの滴数の規定はなく,これらの滴数の輸液セット等が使用可能な設定を有するものとなっていた。このような状態は安全対策上,好ましいことではなかった。
 このため,平成17年3月25日付厚生労働省告示第112号により,性能,品質,使用目的等について輸液セット等の基準を定め,点滴口サイズに関する基準については,国際規格であるISO規格との整合を図り,日本工業規格として基準を示した。
 また,輸液セットの1mLあたりの滴数を設定して使用する輸液ポンプについては,平成17年11月24日付薬食発第1124002号厚生労働省医薬食品局長通知により,輸液ポンプ承認基準を制定し,仕様に関する項目及び基準において,定められた20滴/mL及び60滴/mL以外の輸液セットを使用できないものとして,滴数統一に関連する基準を示したところである。

 

3.変更の概要

(1)輸液セット等

(ア) 対象
  • 輸液セット(自然落下式・ポンプ接続兼用輸液セット,輸液ポンプ用輸液セット等)
  • 輸血セット(輸血セット,交換輸血用輸血セット)
(イ) 変更の内容
 これまで統一された規格がなかった輸液セット等の1mLあたりの滴数を,20滴又は60滴(微量輸液用)の2規格とした。
(ウ) 移行期間
 1mLあたりの滴数が15滴及び19滴の輸液セット等は平成21年4月1日以降は販売できなくなることから,製造販売業者は平成21年3月31日までに,これらの滴数の輸液セット等は20滴の輸液セット等に切替えることになる。なお,60滴の輸液セットは現行どおり販売される。

切替えの移行期間
切り替えの移行期間

(2)輸液ポンプ

(ア) 対象
  • 汎用輸液ポンプ
(イ) 変更の内容
 輸液ポンプには容積制御方式注1)と滴下制御方式注2)の2種類があり,滴数統一に関係する輸液ポンプは滴下制御方式である。滴下制御方式の輸液ポンプは使用前に予め輸液セット等の滴数を設定し使用することになっており,滴数20滴の輸液セットの使用について,添付文書又は取扱説明書を確認する,若しくは輸液ポンプの製造販売業者等からの情報提供を受けておく。
注1) 容積制御方式とは,正確な容積を送出する送液機構を一定の速度で駆動制御することにより,一定の流速を得る方式をいう。
注2) 滴下制御方式とは,滴下検出器(ドロップセンサー)でとらえる薬液の流速が流量設定値となるように送液機構を加減速することで流速を制御する方式をいう。

(ウ) 移行期間
 輸液ポンプの仕様によっては,滴数20滴の輸液セットが使用できるものとできないものがあり,滴下制御方式の輸液ポンプは,平成21年3月31日までに滴数20滴の輸液セットが使用できるものに切替えることになる。
 

4.医療関係者へのお願い

 医療機関において輸液セット等を使用する際は,輸液セット等の包装上に標記している滴数(例えば,公称滴数1mL≒20滴)を確認し,滴数間違いに注意する必要がある。輸液ポンプについては,滴数15滴又は19滴の設定を消去する機能を有する機種,消去できない機種があるので製造販売業者に確認し,特に,消去できない機種を使用する際は設定の間違いに注意していただきたい。なお,医療機関で使用している輸液ポンプが滴数20滴に対応できるかについては,輸液ポンプの機種名・製造番号を示して,輸液ポンプの製造販売業者等にご相談いただきたい。
 各医療機関においては,輸液セット等の滴数統一について十分ご理解いただき,取扱いについて注意確認の徹底をお願いしたい。

 

5.おわりに

 輸液セット等の滴数統一についての情報入手方法は,日本医療器材工業会のホームページ(http://www.jmed.jp/)の「輸液セット等の滴数統一及び注射針等のカラーコードの統一について」に掲載されている。また,変更に関する詳細情報は,各医療機関が使用している輸液セット等及び輸液ポンプの製造販売業者等にお問い合わせいただきたい。
 なお,同様の情報は医薬品医療機器総合機構の医薬品医療機器情報提供ホームページ(https://www.pmda.go.jp/)の「医療安全情報」に掲載されている。

 

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妊娠と薬情報センター事業について

1.はじめに

 妊娠中に医薬品を使用する場合は,母体への影響だけでなく胎児への影響,特に「催奇性」について十分注意が必要である。
 一方で,実際にはヒトでの催奇性が確認されている医薬品は少ないにもかかわらず1),実際に医薬品の使用によるリスクを過剰に心配する傾向にあるとの報告もある2)。このため,医師等が必要な薬物治療を控えてしまったり,患者本人が自己判断により服薬を中止したりすることで,母体の健康状態が悪化したり,かえって胎児に悪影響を及ぼした例もある。また,慢性疾患により,医薬品を使用しているからといって最初から妊娠を諦めてしまう例もみられる。
 現状において,妊娠中の医薬品使用に関する正確な情報を収集することは困難であることなどから,平成17年10月に国立成育医療センターに「妊娠と薬情報センター」を設置し,試験的に地域を限定して,相談・調査業務を実施していたが,今般,対象地域を全国に拡大したことから,これまでの経緯,業務内容等について紹介する。

 

2.これまでの経緯等

 厚生労働省において,平成17年1月,7月及び8月の3回にわたり,妊婦と薬に関する相談を実施していた医療機関の専門家だけではなく,生命倫理の専門家や一般の方の代表を委員とした「妊婦の服薬情報等の収集に関する検討会」を開催し,相談方法,妊娠結果の調査方法,調査に関する説明と同意の取得についてなど,様々な議論が行われた。当該検討会の意見等を踏まえ,平成17年10月に国立成育医療センター内に「妊娠と薬情報センター」を設置し,当初は東京都世田谷区限定で試験的に事業を開始した。平成18年2月には東京都及び神奈川県,平成18年9月からは首都圏(1都6県)を対象地域としていたが,本年4月から全国で5施設の協力を得て,相談対象地域を日本全国に拡大したところである。

 

3.「妊娠と薬情報センター」について

(1)業務内容

[1] 相談業務
 服薬による胎児への影響を心配する妊婦又は妊娠を希望する女性からの主に主治医を通じた相談及び対面相談を受け付けている。
 以下の手順により,相談希望者は「妊娠と薬情報センター」を利用できる。
 イ  相談を希望する方は,「妊娠と薬情報センター」のホームページ(http://www.ncchd.go.jp/kusuri/index.html)から「問診票」と「相談依頼書」をダウンロードする。
 ロ  患者背景を知るための「問診票」は患者自身が主治医等と相談しつつ記載する。「相談依頼書」の記載は主治医が行う。「相談依頼書」は,主治医の発行する紹介状でも可とする。
 ハ  「問診票」と「相談依頼書」を「妊娠と薬情報センター」へ郵送する。
 ニ  「妊娠と薬情報センター」が,医師用の説明資料を作成する。
 ホ  相談者はこの資料をもとに,次の2通りの方法で説明を受ける。
  • 国立成育医療センター及び協力病院の外来において,医師・薬剤師が相談者に直接説明する方法
  • 「妊娠と薬情報センター」から主治医へ回答書を送り,主治医から相談者に説明する方法
 国立成育医療センターの外来において相談を行う場合には,資料を作成した「妊娠と薬情報センター」の専門スタッフである医師と薬剤師が同席し,リスクコミュニケーションに配慮した相談が可能となる。催奇性のリスクの高い薬剤に関する相談の場合や,相談者の不安度が高い場合等は,原則としてこの方法で相談を受け付けている。なお,協力病院においても,知見を有する専門スタッフによる相談を受けることができる。
 一方,主治医のもとで相談を行う場合には,相談者の身近な医療機関における相談となるため,遠方からの相談や,妊娠初期に体調が悪い等により外出が不安な相談者からの相談が可能である。
 

[2] 出生児に関する調査業務
 出生児に関する調査(妊娠結果調査)は,国立成育医療センターにおいて,相談者が相談の申し込みを行った時点で,出産後の情報を提供していただけるよう協力のお願いをしている。
 調査方法としては,相談者の出産予定日から1ヵ月を経過した時点で,「妊娠と薬情報センター」から調査はがきを送付し,1ヵ月検診の内容を踏まえた記載をした上で返信いただくようお願いしている。
 なお相談の際には,「妊娠と薬情報センター」から相談者に対して提供された情報も,本調査と同様の方法で収集されたこと,また妊娠結果はがきを返信することにより,未来妊娠する女性へ貢献できることなどを説明し,目的・意義を十分に理解していただけるようにしている。

 

(2)現在の状況

 「妊娠と薬情報センター」の設置以降,平成17年度は111件,平成18年度は平成19年2月までに304件,相談の申し込みがあった。当初は毎月十数件ペースであったが,相談対象を首都圏(1都6県)内まで拡大した平成18年9月以降,相談件数は増加し,毎月30件程度のペースで推移している。
 出生児に関する調査については,現時点でもかなりの確率で妊娠結果はがきが回収できており,今後も順次回収された結果を蓄積・解析していくこととしている。

 

4.今後の予定

 今後は,得られた妊娠結果調査を集積し,データベース化して評価することによって,将来的には得られた情報をもとに医薬品の添付文書へ反映させるなど,妊婦における医薬品の安全性情報の発信が可能になると考えている。

 

5.医療関係者へのお願い

 医療関係者におかれては,「妊娠と薬情報センター」における妊娠と薬の相談業務を広く知っていただき,必要に応じてご活用いただくようお願いしたい。

 

<参考文献>

1) Schardein JL. Chemically induced birth defects, 3rd ED. NY:Marcel Dekker, Inc, 2000.
2) Koren G, Bologa M, Long D, Feldman Y, Shear NH. Perception of teratogenic risk by pregnant women exposed to drugs and chemicals during the first trimester. Am J Obstet Gynecol 1989;160(5I):1190-4.
 

図 妊娠と薬情報センター情報

表 協力病院等一覧

国立成育医療センター
  住所:〒157-8535 東京都世田谷区大蔵2-10-1
TEL:03-5494-7845(代表)
FAX:03-3415-0914
(受付時間:祭日を除く月~金曜日10:00~16:00)
ホームページ:http://www.ncchd.go.jp/
(協力病院)
  • 独立行政法人国立病院機構仙台医療センター
  住所:〒983-8520 宮城県仙台市宮城野区宮城野2-8-8
TEL:022-293-1171
(受付時間:祭日を除く月~金曜日10:00~16:00)
  • 国立大学法人筑波大学附属病院
  住所:〒305-8576 茨城県つくば市天久保2-1-1
TEL:029-853-3630
FAX:029-853-7025
(受付時間:祭日を除く月~金曜日9:00~16:00)
  • 国家公務員共済組合連合会虎の門病院
  住所:〒105-8470 東京都港区虎ノ門2-2-2
TEL:03-3588-1111(内線3410)
FAX:03-3505-1764
(受付時間:祭日を除く月~金曜日8:30~17:00)
  • 聖路加国際病院
  住所:〒104-8560 東京都中央区明石町9-1
TEL:03-5550-2412 
FAX:03-3541-1156
(受付時間:祭日を除く月~金曜日9:00~16:00)
  • 地方独立行政法人大阪府立病院機構
  大阪府立母子保健総合医療センター
住所:〒594-1101 大阪府和泉市室堂町840
TEL:0725-56-1220
(上記TELへの問い合わせは,平成19年5月14日から受付予定)
 

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独立行政法人医薬品医療機器総合機構の「医薬品医療機器情報提供ホームページ」で提供している安全性情報について

1.はじめに

 医薬品・医療機器等の安全な使用を推進するため,医薬品医療機器情報提供ホームページ(URLは[https://www.pmda.go.jp/]。以下,「情報提供ホームページ」という。)では,医薬品や医療機器の添付文書情報をはじめ様々な安全性情報を掲載している。特に,平成16年4月の総合機構発足以降,多くのコンテンツの掲載を開始したので,これまでの経緯等とその主なものについて紹介する。

 

2.これまでの経緯等

 情報提供ホームページの前身にあたる医薬品情報提供システムは,平成11年5月より,当時の医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構が当時の厚生省から出される「使用上の注意の改訂指示」や「医薬品・医療機器等安全性情報」,製薬企業から出される「緊急安全性情報(ドクターレター)」等の主に医師,歯科医師,薬剤師を対象とした医薬品の安全性情報を掲載していた。
 厚生労働省では「医薬品情報提供のあり方に関する懇談会」において,医薬品の安全性情報の提供のあり方について検討を行い,平成13年9月に最終報告を取りまとめた。この最終報告には「医療関係者や患者・国民に,医薬品情報を分かりやすく信頼できる情報として,使いやすい形で迅速かつ確実に提供していくため,現行の『医薬品情報提供システム』を拡充・強化し,ITを活用した3つのコンセプト([1]総合的な情報提供,[2]最新情報の提供,[3]国民への情報提供)による『医薬品総合情報ネットワーク』を構築することが有益」と提言されている。
 この最終報告に基づき,現在の情報提供ホームページは,新薬等の承認情報,回収情報,医療安全情報等の医薬品・医療機器の安全性情報を追加し,最新の総合的な情報提供を行っており,特に近年一般の方への情報提供の充実にも取り組んでいる。
 また,平成18年3月に行ったWEBアンケートなど利用者の意見を踏まえ,医療関係者,一般の方,企業関係者等の利用者がより分かりやすく,必要な情報を探しやすいように情報の再配置,また,文字の拡大機能などの機能を強化するため,ホームページのリニューアルを行った。
 今後,体外診断用医薬品の添付文書情報等,順次提供する情報の範囲を拡大し,更に情報量・質ともに充実していく予定である。

 

3.平成16年4月以降に掲載を開始した主なコンテンツ

(1)副作用・不具合報告ラインリスト

 医療関係者を含め一般の方に対して副作用・不具合の報告状況を知らせるため,また医薬品又は医療機器の製造販売業者に,自社製品の副作用・不具合報告以外に,同一成分・同一の一般名の他社製品の副作用・不具合報告ラインリストを把握し,更に他社が報告した副作用報告に,自社製品が併用被疑薬として掲載されている副作用ラインリストを把握し,市販後の安全対策を検討することを可能とするため,副作用・不具合報告ラインリストを公表している。
 公表対象となる副作用・不具合報告は,総合機構の発足した平成16年4月以降に,医薬品・医療機器の製造販売業者が,総合機構に報告したすべての副作用・不具合報告である。
 副作用ラインリストについては平成18年1月から,不具合ラインリストについては平成18年3月から公表し,平成19年3月末に,双方とも平成18年3月までの報告分について公表している。
 なお副作用・不具合報告には,必ずしも医薬品や医療機器と副作用や不具合との因果関係が明確でない報告も含まれているため,何らかの原因で死亡に至った症例については,その死亡と副作用・不具合との因果関係について評価した結果も併せて公表している。

(2)医療機器の添付文書情報

 医療機器を適正かつ安全に使用するため,最新の医療機器の添付文書情報を提供している。一般名・販売名,類別,承認番号等での検索が可能であり,使用上の注意を改訂した場合など,更新された添付文書が分かる仕組みもある。平成17年6月より運用を開始し,平成19年3月末現在,約4,000件の添付文書情報が掲載されている。

(3)一般用医薬品の添付文書情報

 平成18年6月の薬事法改正を受け,一般用医薬品については,そのリスクの程度に応じた情報提供と相談体制の整備,医薬品の販売に従事する専門家の資質確保,適切な情報提供及び相談応需のための環境等を整備するため,平成19年3月から一般用医薬品の添付文書の掲載を開始している。本システムでは販売名,企業名,剤型,成分名,添加物名等で検索が可能となっており,特定の成分にアレルギーを持っている患者さん等が成分や添加物に対する検索・除外検索で商品の絞り込みができる仕組みとなっている。当面は,添付文書情報は画像としてのPDFファイルで表示されている。

(4)患者向医薬品ガイド

 「医薬品情報提供のあり方に関する懇談会」の提言を受け,医療用医薬品を患者等が正しく理解し,重篤な副作用の早期発見等に資するために作成する患者向医薬品ガイドの作成支援を行い,厚生労働省の確認を得た患者向医薬品ガイドを平成18年1月から順次掲載を行っており,平成19年3月の時点で約1,100種類の患者向医薬品ガイドを掲載している。
 更に平成19年3月から,くすりの適正使用協議会が提供する「くすりのしおり」についても,患者向医薬品ガイドの検索画面から検索できるようにした。
 患者向医薬品ガイドの詳細については,医薬品・医療機器等安全性情報No.222をご参照いただきたい。

(5)重篤副作用疾患別対応マニュアル

 医薬品の使用により発生する副作用に着目し,重篤化するおそれのある副作用を対象として,厚生労働省は平成18年度より4年間をかけて,関係学会のご協力を得て重篤副作用疾患別対応マニュアルの作成を進めており,平成18年11月より,作成されたスティーブンス・ジョンソン症候群,中毒性表皮壊死症,間質性肺炎,急性肺損傷・急性呼吸窮迫症候群,非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作,薬剤性パーキンソニズム,横紋筋融解症,白質脳症及び偽アルドステロン症の8つのマニュアルを掲載している。
 本マニュアルは,患者やご家族の皆さんが自覚症状などから重大な副作用の早期発見になる情報と,医療関係者向けに診断方法や対処方法などが取りまとめられている。
 重篤副作用疾患別対応マニュアルの詳細については,医薬品・医療機器等安全性情報No.230をご参照いただきたい。

(6)医薬品医療機器情報配信サービス(プッシュ型メールサービス)

 緊急安全性情報,使用上の注意の改訂,クラス1回収等の医薬品・医療機器等の比較的重要な安全性情報が発せられた場合に,医療現場で働く医師,薬剤師,看護師等が積極的に情報収集しなくとも,予め登録されたメールアドレスに対して,これらの情報を電子メールでお知らせする情報配信サービスである。このサービスに登録することにより医療現場で働く医療関係者にとっては,医薬品・医療機器等の重要な安全性情報を直ちに入手でき,保健衛生上の危害発生の予防や防止に役立つものと期待する。平成17年8月から運用を開始し,平成19年2月末現在の登録件数は約6,500件で,運用開始から延べ178件の情報が配信された。

(7)一般向け情報

 一般向け情報については,上記の患者向医薬品ガイド,重篤副作用疾患別対応マニュアル,一般用医薬品の添付文書情報の他,おくすり相談・医療機器相談窓口のご案内や電話による「くすり相談」事業において,一般消費者から比較的多く寄せられた質問について,おくすりQ&Aとして掲載している。

 

4.おわりに

 医薬品・医療機器等の安全対策を向上するには,安全性情報を利用される医療関係者,一般の方,企業関係者等に向けて,分かりやすく,使いやすい情報の提供が必要と考えている。多くの方に情報提供ホームページを積極的にご活用いただき,改善点などのご意見等があれば,医薬品医療機器総合機構安全部安全性情報課(E-mail;info-master@pmda.go.jp)にご連絡ください。

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市販直後調査の対象品目一覧

(平成19年4月1日現在)
一般名 製造販売業者名 市販直後調査開始年月日
販売名
塩酸オロパタジン 日本アルコン(株) 平成18年10月5日
パタノール点眼液0.1%
ブスルファン 麒麟麦酒(株) 平成18年10月10日*1
ブスルフェクス点滴静注用60mg 平成18年10月20日*2
塩酸フェキソフェナジン サノフィ・アベンティス(株) 平成18年10月20日
アレグラ錠60mg*3
塩酸ランジオロール 小野薬品工業(株) 平成18年10月20日
注射用オノアクト50*4
モザバプタン塩酸塩 大塚製薬(株) 平成18年10月24日
フィズリン錠30mg
インターフェロンベータ-1a(遺伝子組換え) バイオジェン・アイデック・ジャパン(株) 平成18年11月6日
アボネックス筋注用シリンジ30μg
塩酸モキシフロキサシン 日本アルコン(株) 平成18年11月6日
ベガモックス点眼液0.5%
肺炎球菌ワクチン 萬有製薬(株) 平成18年11月29日
ニューモバックスNP
ボルテゾミブ ヤンセンファーマ(株) 平成18年12月1日
ベルケイド注射用3mg
イトラコナゾール ヤンセンファーマ(株) 平成18年12月6日
イトリゾール注1%
ロピニロール塩酸塩 グラクソ・スミスクライン(株) 平成18年12月6日
レキップ錠0.25mg,同錠1mg,同錠2mg
ランソプラゾール 武田薬品工業(株) 平成18年12月7日
タケプロン静注用30mg
ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド 萬有製薬(株) 平成18年12月8日
プレミネント錠
ポリドカノール 堺化学工業(株) 平成18年12月14日
ポリドカスクレロール0.5%注2mL,同1%注2mL,同3%注2mL
塩酸フェキソフェナジン サノフィ・アベンティス(株) 平成19年1月9日
アレグラ錠30mg
ペルフルブタン 第一製薬(株) 平成19年1月10日
ソナゾイド注射用
ペメトレキセドナトリウム水和物 日本イーライリリー(株) 平成19年1月22日
アリムタ注射用500mg
レミフェンタニル塩酸塩 ヤンセンファーマ(株) 平成19年1月22日
アルチバ静注用2mg,同静注用5mg
インフリキシマブ(遺伝子組換え) 田辺製薬(株) 平成19年1月26日
レミケード点滴静注用100*5
ザナミビル水和物 グラクソ・スミスクライン(株) 平成19年1月26日
リレンザ*6
タクロリムス水和物 アステラス製薬(株) 平成19年1月26日
プログラフカプセル0.5mg,同カプセル1mg*7
バクロフェン 第一製薬(株) 平成19年1月26日
ギャバロン髄注0.005%,同髄注0.05%,同髄注0.2%*8
ミカファンギンナトリウム アステラス製薬(株) 平成19年1月26日
ファンガード点滴用25mg,同点滴用50mg,同点滴用75mg*9
ルリオクトコグアルファ(遺伝子組換え) バクスター(株) 平成19年2月22日
アドベイト注射用 250,同注射用 500,同注射用1000
フォリトロピンベータ(遺伝子組換え) 日本オルガノン(株) 平成19年3月16日
フォリスチム注50,同注75*10
ペグインターフェロンアルファ-2a(遺伝子組換え) 中外製薬(株) 平成19年3月16日
ペガシス皮下注90μg,同皮下注180μg*11
リバビリン 中外製薬(株) 平成19年3月16日
コペガス錠200mg
モダフィニル アルフレッサファーマ(株) 平成19年3月28日
モディオダール錠100mg
 
*1 初めに承認された成人用量
*2 用法追加された「小児」
*3 用法追加された「小児(7歳以上)」
*4 効能追加された「手術後の循環動態監視下における下記の頻脈性不整脈に対する緊急処置:心房細動,心房粗動,洞性頻脈」
*5 効能追加された「ベーチェット病による難治性網膜ぶどう膜炎(既存治療で効果不十分な場合に限る)」
*6 効能追加された「A型又はB型インフルエンザ感染症の予防」
*7 効能追加された「ループス腎炎(ステロイド剤の投与が効果不十分,又は副作用により困難な場合)」
*8 用法追加された「小児」
*9 効能追加された「造血幹細胞移植患者におけるアスペルギルス症及びカンジダ症の予防」
*10 効能追加された「視床下部-下垂体機能障害に伴う無排卵及び希発排卵における排卵誘発」
*11 効能追加された「リバビリンとの併用による以下のいずれかのC型慢性肝炎におけるウイルス血症の改善(1)セログループ1(ジェノタイプI(1a)又はII(1b))でHCV-RNA量が高値の患者(2)インターフェロン単独療法で無効又はインターフェロン単独療法後再燃した患者」
 

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参考資料1

リン酸オセルタミビルについて

 リン酸オセルタミビルについて、平成19年3月20日付緊急安全性情報の発出の指示による「タミフル服用後の異常行動について」及び平成19年4月4日付薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の結果である「リン酸オセルタミビル(タミフル)の副作用報告等を踏まえた当面の対応に関する意見」を紹介します。



 
平成19年3月20日
厚 生 労 働 省
医薬食品局安全対策課
 
タミフル服用後の異常行動について
(緊急安全性情報の発出の指示)
 

1.製品の概要

一 般 名: リン酸オセルタミビル
販 売 名:
(効能・効果)
[1]タミフルカプセル75
(A型又はB型インフルエンザウイルス感染症及びその予防)
   [2]タミフルドライシロップ3%
(A型又はB型インフルエンザウイルス感染症)
薬効分類: 抗ウイルス剤
製造販売業者: 中外製薬株式会社
国内供給量: 約860万人分(平成17年度冬シーズン)
 

2.経緯

(1)  リン酸オセルタミビル(タミフル)は、A型又はB型インフルエンザウイルス感染症(カプセル剤については、その予防を含む。)の適応を有する経口薬である。我が国では、平成13年2月から販売されている。
(2)  タミフルによる「精神・神経症状」については、因果関係は明確ではないものの、医薬関係者に注意喚起を図る観点から、平成16年5月、添付文書の「重大な副作用」欄に「精神・神経症状(意識障害、異常行動、譫妄、幻覚、妄想、痙攣等)があらわれることがあるので、異常が認められた場合には投与を中止し、観察を十分に行い、症状に応じて適切な処置を行うこと。」と追記した。
(3)  今年2月に入り、タミフルを服用したとみられる中学生が自宅で療養中、自宅マンションから転落死するという痛ましい事例が2例報道された。このことなどを受け、万が一の事故を防止するための予防的な対応として、特に小児・未成年者については、インフルエンザと診断され治療が開始された後は、タミフルの処方の有無を問わず、異常行動発現のおそれがあることから、自宅において療養を行う場合、[1]異常行動の発現のおそれについて説明すること、[2]少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することが適切と考え、2月28日、その旨を患者・家族に対し説明するよう、インフルエンザ治療に携わる医療関係者に注意喚起した。
(4)  上記(3)のような予防的な対応を行ってきたが、本日(3月20日)、タミフルの服用後に12歳の患者が2階から転落して骨折したとする症例が1例報告された。また、本日(3月20日)、2月上旬にタミフルの服用後に12歳の患者が2階から転落して骨折したとする症例についても報告がなされた。
 これら個々の症例の評価は、今後の詳細な情報を受けて行われるが、タミフル服用後に発現したという事実が確認されたことから、今般、添付文書を改訂するとともに、「緊急安全性情報」を医療機関等に配布し、タミフル服用後の異常行動について、更に医療関係者の注意を喚起するよう、中外製薬株式会社に指示したところである。
 

3.対応

(1) 厚生労働省
 中外製薬株式会社に対し、添付文書の改訂、「緊急安全性情報」の作成及び医療機関等への配布を指示した。
  
(2) 中外製薬株式会社
 ア   「緊急安全性情報」を配布し、下記イの添付文書の改訂内容を医療機関等に対し、速やかに伝達する。
 イ   添付文書の改訂内容
 現行の「警告」欄の記載を次のように変更し、あわせて「使用上の注意」を整備する。


【タミフルカプセル75】
1.  本剤の使用にあたっては、本剤の必要性を慎重に検討すること。
2.  10歳以上の未成年の患者においては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に異常行動を発現し、転落等の事故に至った例が報告されている。このため、この年代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること。
 また、小児・未成年者については、万が一の事故を防止するための予防的な対応として、本剤による治療が開始された後は、[1]異常行動の発現のおそれがあること、[2]自宅において療養を行う場合、少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することについて患者・家族に対し説明を行うこと。
 なお、インフルエンザ脳症等によっても、同様の症状が現れるとの報告があるので、上記と同様の説明を行うこと。
3.  インフルエンザウイルス感染症の予防の基本はワクチン療法であり、本剤の予防使用はワクチン療法に置き換わるものではない。


【タミフルドライシロップ3%】
1.  本剤の使用にあたっては、本剤の必要性を慎重に検討すること。
2.  10歳以上の未成年の患者においては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に異常行動を発現し、転落等の事故に至った例が報告されている。このため、この年代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること。
 また、小児・未成年者については、万が一の事故を防止するための予防的な対応として、本剤による治療が開始された後は、[1]異常行動の発現のおそれがあること、[2]自宅において療養を行う場合、少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することについて患者・家族に対し説明を行うこと。
 なお、インフルエンザ脳症等によっても、同様の症状が現れるとの報告があるので、上記と同様の説明を行うこと。
3.  本剤の予防効能での使用は推奨されていない。
【参考:製造販売業者照会先】
  中外製薬株式会社
  医薬情報センター
  TEL:0120-189-706


(照会先)
  医薬食品局安全対策課
  TEL:03-5253-1111
  内線2749
 

 
平成19年4月4日
薬事・食品衛生審議会
医薬品等安全対策部会
医薬食品局安全対策課
リン酸オセルタミビル(タミフル)の副作用報告等
を踏まえた当面の対応に関する意見
 

 タミフルについての当面の対応に関する意見は、次のとおりである。

第1 本日の検討

 本日、当調査会は、平成19年3月20日までに企業から報告された1,079人、1,465件の副作用報告及び翌21日から同年4月3日までに企業から報告された185人分の副作用報告(未整理分のもの)等について検討を行った。
 本日の検討では、タミフルの服用と転落・飛び降り又はこれらにつながるような異常な行動や突然死などの副作用との関係について、結論は得られていない。
 今後、詳細な検討を行うなど、第3に示すような取組を行うことが必要である。

 

第2 現在講じられている措置

1   3月20日に緊急安全性情報を発出し、次のような措置が講じられている。当面の措置としては、現在講じられている措置を継続することは妥当と考えられるが、医療従事者に対する注意喚起の徹底に一層努力するとともに、患者・家族等へのインフルエンザ等の基礎知識の普及に努める。
 ただし、現在講じられている措置については、新たに設置するワーキンググループにおいて更に検討を行う。
  
  • 10歳以上の未成年の患者は、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること。
  • 小児・未成年者は、本剤による治療が開始された後は、[1]異常行動の発現のおそれがあること、[2]自宅において療養を行う場合、少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することについて、患者・家族に対し、説明を行うこと。
  • インフルエンザ脳症等によっても、同様の症状が現れるとの報告があるので、上記と同様の説明を行うこと。
2   タミフルを服用していない場合においても、インフルエンザの臨床経過中に転落・飛び降り又はこれらにつながるような異常な行動の発現がみられる。
 この点について医療関係者は注意すべきであり、関係団体は、医療関係者に注意喚起すべきと考えられる。

第3 今後必要と考えられる取組

1   本問題の解明に資するよう、次のような基礎的研究を実施し、その結果を当調査会に報告することが適当である。
  • タミフルの神経生理学的な作用を更に明らかにするためのタミフルの脳内(中枢神経)への移行等
2   タミフルの安全性について、次のような臨床的な側面及び基礎的な側面から詳細な調査検討を行うため、当調査会の下に、(1)タミフルの臨床的調査検討のためのワーキンググループ(仮称)(以下「臨床WG」という。)及び(2)タミフルの基礎的調査検討のためのワーキンググループ(仮称)(以下「基礎WG」という。)を設け、その結果を当調査会に報告させることが適当である。
 (1)   臨床WG
  • 転落・飛び降り又はこれらにつながるような異常な行動、突然死等の副作用についての詳細な調査検討、またインフルエンザハイリスク患者に特有な問題の有無の検討
  • 今後の臨床研究の計画、結果等についての検討
  • 平成18年度厚生労働科学研究費補助金「インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究」の結果等についての検討
 (2)   基礎WG
  • 今後の基礎的研究の計画、結果等についての検討
3   平成18年度厚生労働科学研究費補助金「インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究」の結果を臨床WG及び当調査会に報告する。
4   企業及び厚生労働省は、引き続き、タミフルに関する国内外の安全性情報の収集に努め、必要に応じ、迅速かつ適切な対応をとるべきである。



 

参考資料2

ファーマコゲノミクスの展望
(ワルファリンの治療に関連する遺伝子多型)

1.はじめに

 ファーマコゲノミクスは,患者個人の持つ潜在的な薬効の差異や副作用のリスクに関する遺伝的要因を理解する上で重要であり,それを巡る状況については,医薬品・医療機器等安全性情報No.219の参考資料で紹介したところである。
 ファーマコゲノミクスについては,ICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)においても,関連する専門用語の定義を明らかにしたガイドライン案を策定する1)など,その基盤を整備する取組が進んでいる。今回はファーマコゲノミクスの関連の話題として,ワルファリンの治療に関連する遺伝子多型について紹介する。


2.ワルファリンの治療に関連する遺伝子多型

 ワルファリンは,我が国のみならず国際的にも広く,古くから血栓塞栓症の治療及び予防に使用されている経口抗凝固薬である。投与量には大きな個人差があり,従来から初期投与量の推測が困難な薬物の一つとされてきた。ワルファリンの標的分子はビタミンK依存性凝固因子の生成に関与するビタミンKエポキシド還元酵素(VKORC1)であり,薬理作用を示すS体ワルファリンの主な代謝酵素はチトクロームP450 2C9(CYP2C9)である。

 近年,VKORC1とCYP2C9の遺伝子多型が報告され,この遺伝子多型がワルファリンの治療効果に影響を及ぼすことが明らかになりつつある。
 VKORC1のタイプH1とH2を有する患者では治療に必要なワルファリンの投与量は少なく,タイプH7,H8,H9を有する患者では多くなる傾向にあると言われている2)
 一方,CYP2C9の変異型を有する患者ではワルファリンの代謝能が低いために治療に必要なワルファリンの投与量は少なくてすむが,副作用としての出血のリスクも高いのに対し,野生型を有する患者ではワルファリンの投与量は多くなる傾向にあると言われている3)
 このワルファリンの治療効果に関する遺伝子多型の頻度には,人種差が報告されている。ワルファリン感受性が高いと言われるVKORC1のH1,H2タイプの頻度は,アジア人では9割程度と,欧州人で約4割,アフリカ人で約1割であるのに比べて高いという報告がある。一方でワルファリンの代謝能を低下させるCYP2C9の遺伝子多型の頻度は,日本人では5%未満と言われており,他の人種で1~20%程度である4)のに対し高くはないが,総じて,日本人にはワルファリンに対する感受性が高く,投与量が低用量ですむ人が多いことが予測される。
 なお,CYP2C9は多くの薬剤の代謝に関与しており,フェニトインなどとの併用療法において,ワルファリンの代謝を遅らせ,ワルファリンの血中濃度を上昇させるため,ワルファリンの治療においては併用薬剤にも注意を要する。

 以上から,VKORC1及びCYP2C9の遺伝子多型が,ワルファリン至適投与量を決定する際の有用な情報となりうるものと考えられる。今後,我が国における遺伝子多型とワルファリン感受性との関係について研究が進められていくことが期待される。

 

表 ワルファリン関連遺伝子多型

遺伝子多型 ハプロタイプ等 ワルファリン感受性
VKORC1 H1,H2
H7,H8,H9

CYP2C9 変異型
野生型

 

3.今後の展望

 米国では,塩酸イリノテカンの重篤な副作用の発現に関わるUGT1A1の遺伝子多型を調べる検査薬が医薬品として承認されており,当該医薬品の添付文書には,UGT1A1の遺伝子多型による投与量の調節の目安が記載されている。我が国においては,厚生労働省からその開発,実用化への取組を促進するよう関係企業に要請していたところ,塩酸イリノテカンの副作用に関わるUGT1A1の遺伝子多型を調べる検査薬が製造販売業者より承認申請中である。たとえ研究レベルで遺伝子解析法が確立していたとしても,ファーマコゲノミクスを利用した個別化医療を実践していくための課題は少なくない5)が,ファーマコゲノミクスについて国際的な取組が進む中で,今後とも,より有効性・安全性の高い薬物治療を実現するための取組が期待される。

 

<参考文献>

1) ゲノム薬理学における用語集(案)ICH E15 ガイドライン(2006)
2) Rieder MJ, Reiner AP, Gage BF, et al. Effect of VKORC1 haplotypes on transcriptional regulation and warfarin dose. N Engl J Med, 352(22):2285-93(2005)
3) Aithal GP, Day CP, Kesteven PJ, Daly AK:Association of polymorphisms in the cytochrome P450 CYP2C9 with warfarin dose requirement and risk of bleeding complications. Lancet, 353:717-9(1999)
4) 越前宏俊:ワーファリンの抗凝固効果の個人間変動に関係する遺伝子多型. 日本血栓止血学会誌 12(2):111-8(2001)
5) 中谷中:抗血栓療法のオーダーメイド医療. 日本血栓止血学会誌 17(6):706-10(2006)
 

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お知らせ

医薬品・医療機器等安全性情報は,医薬品医療機器情報提供ホームページ(https://www.pmda.go.jp/)又は厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/)からも入手可能です。