独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
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国際関係業務

薬剤耐性に関する共同声明

ICMRA

 

世界の薬事規制当局から薬剤耐性の抑制についてのステートメント

薬事規制当局国際連携組織(International Coalition of Medicines Regulatory Authorities (ICMRA))は、WHO(World Health Organization)と協働して、薬剤耐性(antimicrobial resistance (AMR))[1]の抑制へのサポートにコミットしている。

抗微生物薬は現代医療の提供に不可欠である。WHOは、国際的公衆衛生に対する脅威のトップ10の一つとしてAMRを挙げている。AMRは最軽度の感染症であっても治療する能力を脅かし、外科的処置やその他の先進的な救命医療行為を重大に損ないかねない。AMRは国際的公衆衛生、経済的繁栄、及び安全保障に対する大きな脅威である。AMRへの対応を取らない場合、世界中で2050年までに経済的取引高で100兆ドル/年、1千万人/年の損害が出ると推計されている[2][3]

抗微生物薬を必要としている人のアクセスを世界的に確保しつつ、感染予防や、薬剤耐性を促すような過剰使用・誤用の削減により、現在使用可能な抗微生物薬を保全することが極めて重要である。革新的な新治療法や、感染予防、診断、治療に資する新技術も必要である。

ICMRA[4]は、AMRの問題が複合的かつ多面的であることを認識しており、公衆衛生、動物への使用、環境等のすべてのセクターが連携したOne Health[5]の対応を呼びかけている。メンバーである世界各国の薬事規制当局はWHOと連携し、政策立案者、産業界、アカデミア、医療従事者、非政府組織、マスメディア、そして一般社会に、以下について協力してもらうよう強く促すことで一致した:

  • AMRの発生と拡大を最小限に抑える
  • 抗微生物薬サーベイランス、感染予防・管理、スチュワードシップにおける進化を継続する
  • 診断薬や抗微生物薬の代替手段を含むAMRとの戦いに資する、革新的な新薬や他の治療製品の開発を優先する
  • 抗微生物薬への公平なアクセスを世界的に確保する
  • 抗微生物性物質の環境への放出を最低限に抑える


AMRを抑止する製品の開発、商業化や実現性には特有の課題があり、これらに対応できる現代的な規制制度が必要である。このような理由から、薬事規制当局は、これらの製品の品質・有効性・安全性の審査を損なうことなく、規制要件の効率化に向けた協働にコミットしている。我々は、ファージ・セラピー[6]やポイントオブケア診断薬など、次世代型技術の審査を促進するプロセスの開発にもコミットする。研究開発のステークホルダーには、規制制度をNavigateする上での支援のために薬事規制当局にいつでも相談することや、AMR固有の課題に対する新たな課題を特定することを呼びかけたい。

世界の薬事規制当局は、この公衆衛生上の脅威に対し、十分に対応し続ける準備があるが、関係者にもOne Healthとして、この課題に対応していただくよう促している:
 

  • ICMRAは産業界のリーダーに、産業界全体として研究開発投資を増やしていただくことを呼びかける。他の選択肢が全て無効であった場合でも効果を示す新しい抗微生物薬の必要性、抗微生物薬の使用を最小化できるような抗微生物薬以外の選択肢の必要性、抗微生物薬の慎重で適切な使用を容易にする診断薬の必要性は、喫緊の課題である。感染予防・管理は現代医療の基盤であり、安定した世界の医療制度を確保するために、AMRと闘うための技術革新は、その他の分野における進歩と同時に起こらねばならない。
 
  • ICMRAは医療従事者たちに、人及び動物に対する医療の両方において、抗微生物薬の適切使用を優先し、抗微生物薬の責任ある処方原則を臨床現場へ導入することを呼びかける。どの抗菌薬をいつ使用するかの判断に資するようWHOはAWaRe[7]と呼ばれるツールを開発している。
 
  • ICMRAは世界の医療界のリーダーたちに、イノベーションを推奨し、必要な変更を実現するために、新製品開発を取り巻く経済的課題に対処するための最も効果的な方法の決定に向けて、産業界と一体で取り組むことを呼びかける。
 
  • ICMRAは、また、既存抗微生物薬の有効性の継続的モニタリングや、新たに発生するAMRの積極的監視の実施を含めたAMRのあらゆる側面における継続的な研究を呼びかける。
 
  • ICMRAは世界中のマスメディアに、AMRをニュース・サイクルの中心に置きつづけること、本件の認知度向上に資することを呼びかける。AMRは公衆衛生に対する最大の世界の脅威の一つであり、何が危機に瀕しており、この医療への危機に対抗するために個人として何ができるのかについて、世間一般に周知する必要がある。


我々は皆それぞれ、AMRに対抗するために果たすべき役割を担っている。我々の医療、経済、安全保障に対するこの脅威への対抗措置を確実に成功させるために、すべての関係者が協働して取り組むことが必要である。世界中の人々の命がこの協働にかかっている。

ICMRA website
ICMRA Antimicrobial Resistance Statement
 

[1] 抗微生物薬とは、細菌、真菌、寄生虫、ウイルスなどの微生物を殺すあるいは発育阻止することができる天然、半合成、合成物質である。薬剤耐性とは、特定の微生物に対して効果があった抗微生物薬が、その微生物の生物学的構成の変化により、治療抵抗性を示すようになった状態を示す。この問題は、自然発生的に、あるいは感染に対して一部の微生物のみを殺すにとどまる抗微生物薬が使用された場合に起こりうる。治療抵抗性の微生物が生き残り、増殖しうる。環境中には耐性を持った微生物が残存し、やがて、部分的/完全に抗微生物薬耐性の新たな株の病原性微生物が発生する。Antimicrobial Resistance and Use in Canada: A Federal Framework for Action. 2017. https://www.canada.ca/en/public-health/services/antibiotic-antimicrobial-resistance/antimicrobial-resistance-use-canada-federal-framework-action.html
[2] O’Neil, J. The Review on Antimicrobial Resistance. 2016. https://amr-review.org/
[3] World Bank Group. Drug-Resistance Infections: A Threat to Our Economic Future. 2016.
[4] ICMRAは、世界各地域の主要な規制当局からなる長官レベルの国際会合。WHOをオブザーバーに据え、世界の29の国/地域の薬事規制当局のリーダーたちを集め、人の保健に必要な安全・効果的・高品質な製品へのアクセスを促進している。また、医薬品規制当局に対して国際的な戦略的視点を提供し、共通の規制の問題・課題に対して戦略的リーダーシップを執っている。危機的状況などへの協働的対応などを優先事項としている。
[5] One Healthとは、より良い公衆衛生成果の達成を目的として、様々な領域の関係者が情報交換・協働するための施策、政策、法整備、研究の設計・導入のアプローチである。World Health Organization. 2017. https://www.who.int/features/qa/one-health/en/
[6] ファージ・セラピーとは、病原性(病気を引き起こす)細菌による感染症に対して、細菌を選択的に攻撃するウイルス(バクテリオファージ)を使用する治療法である。
[7] https://adoptaware.org