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国際関係業務

Canary Wharf便り~欧州医薬品庁(EMA)にて~第1回 2010年1月

2010年1月27日
林  憲 一

2009年11月下旬から、ロンドンにあるEuropean Medicines Agency(以下Agencyという)にMHLW/PMDAのLiaison Officialとして派遣され、長官オフィスに籍を置くこととなりました。この機会に、Agencyに関する情報や話題について、Canary Wharf*便りと題して報告したいと思います。

 なお、このCanary Wharf便りは、Agencyに派遣されている林がAgencyに関する情報を個人の立場でまとめたもので、Agencyあるいは派遣元である厚生労働省(MHLW)、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の見解等を示すものではないことにご留意下さい。

* Canary Wharf(カナリー埠頭)は、Thames川に沿ったAgencyの所在地の地名であり、London UndergroundのJubilee lineおよびDLRの最寄りの駅名です。この名前は、1937年に当時埠頭を所有していたFruit Line Limited.という会社がここに倉庫を作り、カナリー諸島および地中海から果物を輸入したことに由来するそうです。

European Medicines Agencyの役割と責務

 今年はEuropean Medicines Agency創設から15年目の節目の年であり、Agency内ではこれを記念するカクテル・パーティなどが予定されています。そこでまず第1回目の報告では、Agencyのこれまでの歩みを簡単に振り返るとともに、その役割や責務について解説したいと思います。

 European Medicines Agency は、当初、1993年の理事会規則(EEC)No 2309/93に基づき、European Agency for the Evaluation of Medicinal Productsという長い名前の機関として創設されました。このとき併せて人用および動物用医薬品の評価と監視のための新たな手続も制定されています。その後、各国政府首脳会議の決定によりAgencyの設置場所としてロンドンが選ばれ、1995年2月1日より正式に業務を開始しました(この頃はまだJubilee lineがCanary Wharfまで通じておらず(Canary Wharf駅の開業は1999年9月17日)、職員数は70名ほど(現在は加盟国からのsecondment等も含めると650名超)、今では複数のビル(写真)にわたり11階まで占めるオフィスも当初は1フロアーだったとか)。

 EUの医薬品規制は、その後何度か改正・追加が行われ、Agencyに一連の新たな任務が付与されるとともに組織も改革され、名称も現在のEuropean Medicines Agencyに改められました。

 EUの医薬品規制はいくつかの規則に分かれています。中でも重要と思われるのが次の4つです。規則(EC)No141/2000では、希少疾病用医薬品の開発を促進するための法的枠組とインセンティブが定められました。また、規則(EC)No 726/2004は、理事会規則(EEC)No 2309/93に基づき行われてきたそれまでの運用を、将来の科学技術の進展やEU拡大等の動きにも対応できるようアップデートし、中央審査方式の対象となる医薬品の範囲を拡大するとともに、欧州における医薬品規制のための多くの新たな規定を取り入れたものです。さらに規則(EC)No 1901/2006では、小児用医薬品に関連した任務やインセンティブが、また規則(EC)No 1394/2007では、先進医療に関連した規制が導入されました。  なぜ欧州特有のシステムが必要かということに関してAgencyは、人々と動物の健康保護のためには最善の科学的専門知識を欧州全域でプールして医薬品評価に当たらなければならないこと、単一の欧州市場を医薬品について達成しなければならないこと、欧州の研究開発型製薬企業が恩恵を受けられるシステムであること、公衆衛生の課題に対して欧州レベルで討議できるプラットフォームが必要であることをその理由として挙げています。

 Agencyのミッション・ステートメントでは、The mission of the European Medicines Agency is to foster scientific excellence in the evaluation and supervision of medicines, for the benefit of public and animal healthとされています。強いて訳せば、Agencyのミッションは、医薬品の評価・監督における科学的卓越性を涵養し、以って人々と動物の健康に恩恵をもたらすことである、ということでしょうか。

 欧州のシステムの中には、よく知られているように中央審査方式の手続と相互承認方式や非中央審査方式の手続とがあり、中央審査方式はAgencyが中心となって運用されています。中央審査方式では、診療報酬や薬価の問題は扱われません。Agencyの中央審査方式では単一の審査で迅速に欧州全域の販売承認が得られるのに対し、相互承認方式や非中央審査方式ではその運用が加盟国に任されているため、加盟国間のばらつきをどう解消していくかということが課題であるように思われます。

 Agencyの活動には、今や47のEU加盟国の医薬品規制当局(人用および動物用医薬品を所管する)が参加し、その評価活動には4,500名を超える加盟国の専門家から成るネットワークが関わっています。そしてAgencyは、各加盟国が擁する既存の科学的リソースをコーディネートすることを主な任務としています。その意味では、一種のバーチャル・エージェンシーとして各国当局に対してインターフェース機能を提供しているとも言え(実際、すべての加盟国の関係者は、EudraNetと呼ばれるITネットワークで結びつけられています)、各加盟国の規制当局に置き換わり各国で強制力を行使するという性格の機関ではないように思われます。

 加盟国の専門家から成るネットワークは、AgencyのScientific committeeやWorking partyの活動を支えています。専門家の参加に当たっては、Agencyとの間で契約が交わされ、彼らの専門性は各国当局が保証し、企業からの独立性や高潔さ(integrity)は、公開の利益相反宣誓書(public declaration of interests)により担保されています。

 また、加盟国に加えてAgencyは他のEU機関とも緊密に連携して業務を行っています。そのような機関としては、Agencyを所管するEuropean Commission(欧州委員会)の他、European Parliament(欧州議会)、他のEU Agency (EMCDDA(欧州薬物乱用モニタリングセンター)、EFSA(欧州食品安全委員会)、ECDC(欧州疾病対策センター)、Translations Centreなどがあります。

 特にEuropean Commissionとの関係では、AgencyはCommissionの一部ではなく、あくまでEUにおける独立した規制当局としての地位を有し、Agencyが科学的クライテリアに基づく意見を採択し、Commissionはそれに基づき決定を下すという関係になっています(日本の厚生労働省と総合機構の関係に近いと思われます)。もしCommissionがAgencyの意見と異なる決定を下す場合には、Commission にはそのことに対する十分な説明が求められます。

 先に、EUの医薬品規制は幾度かの改正を経て、Agencyに新たな任務が付与されてきたと言いましたが、創設時に定められたAgencyの役割に加えてその後新たに追加された事項を下に時系列で示しました。これを見ると、この15年間でAgencyの業務範囲が拡大し、欧州の医薬品規制に果たす役割がますます重要になっていることが窺われます。また、その業務は単に医薬品の規制だけにとどまらず、小児用医薬品の開発促進策や中小ベンチャー企業への支援策の拡充、再生医療やナノメディシン等の新技術への対応を進める一方、Management Board Meetingへの医学団体や患者団体の代表の参加を通じAgency外の人々との関わりを深めるなど、広汎でダイナミックな発展を遂げてきたことが分かります。
 
[EMEAの責務の拡大]

2001年 オーファン・ドラッグ指定制度の導入
2005年&2008年 規制対象医薬品の拡大*
2005年 バイオシミラー、ジェネリック医薬品
2005年 ハーバル・メディシン
2007年 小児用医薬品
2008/2009年 先進医療
今後 ファーマコビジランスに係る新たな法規制
  • 中小企業(ベンチャー)支援
  • 様々な情報の発信
  • 医学団体や患者団体のマネジメント・ボード・ミーティングへの参加
  • 新テクノロジーへの対応(細胞治療、遺伝子治療、ナノメディシン等)


*それまでのRecombinant DNA technology, Controlled gene expression, Monoclonal AB技術を用いた人用医薬品に加えて、2005年にOrphan medicinal productsの他、AIDS、Cancer、Neurodegenerative disorder、Diabetesを適応とする人用医薬品、2008年にはAuto-immune diseases and other immune dysfunctions、viral diseaseを適応とする人用医薬品に拡大された。

 

Agencyの新たなコーポレート・アイデンティティ

 皆さん、昨年12月8日からAgencyのロゴマーク(visual identity)が新しくなったことはご存知ですか?この日、Agencyは新たなコーポレート・アイデンティティを公式に発表しました(http://www.ema.europa.eu/htms/general/direct/visual_identity.htm)。主な変更点は、薬の乳鉢をモチーフにしたシンボル・マークにEuropean Medicines Agencyの文字と科学、医薬、健康の3つの言葉を伴った新たなvisual identityの制定、これまで略称として使われてきたEMEAの呼称は使わず、European Medicines Agency若しくはthe Agencyを使うこと(EMAという略称もe-mailアドレス等一部を除き原則として使わない。ただし、未来永劫使わないということではなく、今後様子を見てまた考えるそうです)。その結果、AgencyのウェブサイトのURLと職員のe-mail アドレスがそれまでのemea.europa.euから ema.europa.euに変更されること、昨年の組織改変を反映した新たな組織図がこの日から使用されること、そしてこれはまだ作業中ですが、2010年の早い時期にAgencyのパブリック・ウェブサイトのデザインを一新することです。

 このコーポレート・アイデンティティ見直しプロジェクトは、Agencyのコミュニケーション戦略の一環として、2年前の2007年7月から進められてきました。1995年にAgencyが発足した当時はこのような概念はまだなく、その後ばらばらに発展してきた呼称やロゴマーク、文書のテンプレートなどいろいろなものを改めて全て見直し、外部の人たちにはAgencyというブランドをもっとよく知ってもらうこと、内部で働く人たちにはより強い一体感と共通の目的意識を持ってもらうことを目的として始められたものです。

 これまで関係者が慣れ親しんできたEMEAの呼称とロゴを見直すことには反対意見もあったようです。また、visual identityにも「乳鉢」以外いくつか候補があったようですが、プロのデザイナーの意見を参考にし、さらにAgencyのスタッフだけでなく、マネジメント・ボード、各加盟国の医薬品規制当局、医学団体、患者団体、製薬企業等にも広く意見を求め議論が重ねられた結果、拡大したAgencyの責務を表すにふさわしい新たなコーポレート・アイデンティティを求める声が勝って、最終的にこのような形に落ち着いたようです。

 従来のEMEAという欧州らしさの感じられるロゴに慣れ親しんだ私には、敢えてコーポレート・アイデンティティを変える必要はないような気もするのですが、皆さんは今回のこの変更についてどう思われますか?