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独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
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安全対策業務

ポリ塩化ビニル製の医療用具から溶出する可塑剤(DEHP)について

医薬安発第1017001号
平成14年10月17日
 

各都道府県衛生主管部(局)長 殿
 

厚生労働省医薬局安全対策課長

 

ポリ塩化ビニル製の医療用具から溶出する可塑剤(DEHP)について



 ポリ塩化ビニル製の医療用具は、素材が化学的に安定であること、また、柔軟性・耐久性等に優れていることなどから、内外において医療の場で広く使用されている。一方、ポリ塩化ビニル樹脂に柔軟性を与えるために加えられる可塑剤であるDEHP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)が使用中に一部溶出することは、米国FDA等が報告しているところである。本邦においても平成13年度の厚生労働省医薬安全総合研究事業において、日本の市場に流通しているポリ塩化ビニル製の医療用具を対象に調査した結果を評価検討し、医療関係者及び関係団体に対して別添(医療機関あて通知、医療用具製造企業関係団体及び製薬企業関係団体あて通知)のとおり特段の配慮をお願いしたところであり、その趣旨をご了知いただき、貴管下関係者に対する周知方よろしくお願いする。

 


医薬安発第1017002号
平成14年10月17日
 

日本医学会会長 殿
日本薬学会会頭 殿
日本医師会会長 殿
日本病院会会長 殿
全日本病院会会長 殿
日本医療法人協会会長 殿
日本精神科病院協会会長 殿
日本歯科医師会会長 殿
日本薬剤師会会長 殿
日本病院薬剤師会会長 殿
日本臨床工学技士会会長 殿
日本看護協会会長 殿
 

厚生労働省医薬局安全対策課長

 

ポリ塩化ビニル製の医療用具から溶出する可塑剤(DEHP)について



 日頃より薬務行政の推進にご理解とご協力を賜り御礼申し上げます。
 さて、ポリ塩化ビニル製の医療用具は、素材が化学的に安定であること、また、柔軟性・耐久性等に優れていることなどから、内外において医療の場で広く使用されているところです。特に、輸液ポンプ等の機器との併用等によるチューブへの大きな負荷をかける場合にあっても、チューブの潰れによる閉塞や引っ張りによる破断といった不具合を生じにくく、ひいてはこれらの不具合の結果生じる投薬上の問題や失血等の危険性が低い医療用具として繁用されているところです。
 一方、ポリ塩化ビニルは、その特性である優れた柔軟性を保持するために、材質中に可塑剤が添加されており、この可塑剤(DEHP:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)が接触する溶媒中に溶出してくることが知られています。このDEHPの溶出は、医療用具においても確認され、昨年来、米国FDA等が臨床使用における患者へのDEHPの曝露について報告しています。本邦において平成13年度に実施された厚生労働省医薬安全総合研究事業において、日本の市場流通品を用いて検証した結果を踏まえ、評価検討したところ、DEHPを可塑剤として含有するポリ塩化ビニル製の医療用具に係る現在の考え方を下記のとおりとりまとめましたので、当該情報について貴会傘下の会員に対し、周知いただくよう特段のご配慮方よろしくお願いします。
 


 

 ポリ塩化ビニルの可塑剤であるDEHPについては、日常生活環境においても曝露されていることが既に知られているが、医学的治療においては比較的多量に及ぶDEHPに曝露されることが指摘されている。これまでの知見によれば、(1)現時点で、DEHPに起因するとされる健康被害の報告が国内外において報告されておらず、米国・欧州等においても使用禁止されていないこと、(2)ポリ塩化ビニル製の医療用具を用いた医療行為の多くが、切迫した生命の危機を回避するために使用される措置であること(特に重篤な患者に使用される血液バッグについては、使用目的の緊急性等に鑑み、現時点で他のバッグに切り替えなければならない状態とは考えられないが、厚生労働省としても新たな代替品の開発やDEHPの曝露に係る科学的知見に引き続き注視していくこととしている。)に鑑み、患者にとって考えられる危険性が使用することによる利便性を上回るものであるとは考えられないこと、(3)また、一般に治療終了に伴い医療用具も使用されなくなることが多いこと、(4)さらに、組合せ(使用方法)によっては全くDEHPが溶出しない場合があることが知られていることから、直ちに使用を中止することを要しないと考えられる。しかしながら、ヒトでは報告されていないものの齧歯類での精巣毒性及び生殖発生毒性が確認されていることから、我が国では不確実係数を100としてTDI(耐容一日摂取量:人が生涯にわたり摂取し続けても健康に対する有害な影響が現れないと判断される体重1kg当たりの1日当たり摂取量)を40~140μg/kg/dayと設定しており、臨床における曝露量がTDIを上回る事例もあることから、以下の点に留意の上、可能な限りDEHPによる曝露を避けるよう臨床使用において配慮することが適当であると考えられる。
 今回の情報提供及び注意喚起は、より良い医療行為を患者に提供する上で参考となる重要な情報を周知することを意図したものであり、医療用具から溶出するDEHPのリスクを回避する目的で、例えば生命維持や余後に影響を与えるような基本的又は重要な治療が回避されるようなことが起きないよう、合わせて注意していただきたい。
 なお、DEHPが溶出しない代替製品に係る情報については、後日調査の上、改めて周知する予定であり、当該情報を医療用具の選定に当たっての参考にしていただきたい。

1) 新生児・乳児に使用されるフィーディングチューブについては、(1)使用対象患者群が感受性が高い集団と考えられること、(2)体重が少なく、体重あたりの被曝量が大きくなると想定されること、(3)脂溶性のミルク等を流すために大量のDEHPが溶出する可能性があること、(4)代替製品が存在することから、できるだけ早期に使用を中止し、代替品の使用に切り替える。

2) ヘパリンコーティングチューブについては、全くDEHPが溶出しないとする海外の報告もあるが、国内流通品についての検討結果では、完全にDEHPの溶出を防止することができないが、曝露量を低減することが確認されており、DEHP曝露の低減の手段の一つとして参考にされるべきものとして周知する。なお、ヘパリンコートについては、生物由来製品であるが、共有結合タイプとイオン結合タイプが知られており、共有結合タイプの方がイオン結合タイプに比べて、よりDEHPの溶出を低減する傾向にあることも報告されいている。

3) 人工腎臓用血液回路については、(1)長時間の体外循環により大量のDEHPに被曝する可能性があること、及び(2)繰り返し使用されるものであることから、新生児・乳児等の感受性が高いと考えられる患者に使用される場合には、臨床上治療等に支障を生じない範囲(ヘパリンコーティングチューブの併用や回路の一部を代替品で置き換える等)で代替品の使用に切り替える。

4) 人工心肺回路及びその他の血液回路については、一時的に大量のDEHPに被曝する可能性があるものの、生涯を通じて反復して被曝する可能性は低いことから、代替品の使用に切り替えることが可能な場合(ヘパリンコーティングチューブの併用や回路の一部を代替品で置き換える等)には、代替品への切り替えを検討する。

5) 輸液チューブ及び延長チューブについては、使用する薬剤に依存してDEHPが溶出することから、特に脂溶性の高い薬剤を使用する場合には、代替品の使用に切り替える。

6) さらに、感受性が高い集団とされている新生児・乳児及びこれら集団に影響を与える可能性が高い妊婦、授乳婦への適用については、優先的に代替品に切り替える等配慮する。

7) 血液バッグについては、DEHPによる赤血球保護作用があることが報告されており、現時点で、代替品に切り替えなくてはならないものとは考えられないが、低温で保存することにより、DEHPの溶出を押さえることができるとの報告もあることから、保管温度を下げできるだけ短時間の保存とするように配慮する。

 


医薬安発第1017003号
平成14年10月17日
 

日本医療機器関係団体協議会会長 殿
日本医療器材工業会会長 殿
在日米国商工会議所医療機器小委員会委員長 殿
欧州ビジネス協会協議会医療機器委員会委員長 殿
 

厚生労働省医薬局安全対策課長

 

ポリ塩化ビニル製の医療用具から溶出する可塑剤(DEHP)について



 ポリ塩化ビニル製の医療用具については、化学的安定性、柔軟性・耐久性に優れた部材として広く医療の場で使用されているところであるが、その可塑剤として使用されているDEHP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)が治療中に溶出することは、米国FDA等が報告している。本邦においても平成13年度の厚生労働省医薬安全総合研究事業において、日本の市場流通品を用いて検証してきた結果を踏まえ、評価検討した結果について、医療関係者に対して別添(医療機関あて通知)のとおり特段の配慮をお願いしたところであり、臨床現場において適正使用が図られるよう、貴会傘下の会員に対して、下記の措置の実施について周知徹底をお願いしたい。
 あわせてDEHPが溶出しない代替製品に係る情報について調査の上、平成15年1月13日までに臨床における使用目的別に分類した上で、製品群毎に取りまとめて当職まで回答願いたい。
 


 

  1. ポリ塩化ビニル製の医療用具(可塑剤が溶出した場合、患者が曝露される可能性があるもの)に係る添付文書への表示について

    医療関係者がポリ塩化ビニル製の医療用具を適正に使用するために、平成13年12月14日付け医薬局長通知(医薬発第1340号)及び同日付け安全対策課長通知(医薬安発第158号及び医薬安発第161号)に基づき、以下のことを記載すること。

    (1)形状・構造等の項に、ポリ塩化ビニル製の医療用具である旨及び使用している可塑剤名を記載すること。

    (2)可塑剤が溶出した場合、患者が当該可塑剤に曝露される可能性があるものについては、使用上の注意の項に、可塑剤の溶出があり得ることを明記すること。

    (3)新生児及び乳児用のフィーディングチューブについては、重要な基本的注意の項及び妊婦、産婦、授乳婦及び小児等への適用の項に、「可塑剤が溶出する恐れがあるために可塑剤を溶出しない代替製品の使用を促す」旨の注意を記載すること。

  2. DEHPを溶出しない代替製品の開発について

    現時点で、ポリ塩化ビニル製の医療用具の臨床上の有用性は否定されていないが、患者への曝露は可能な限り低減することが望まれるので、ポリ塩化ビニル製以外の医療用具、又は、より安全性が高い可塑剤を使用したポリ塩化ビニル製の医療用具の開発を進めること。