ワクチン接種のベネフィットを一般の人々に説明するのは困難である。ワクチンは本来、感染症の治療薬や対症療法薬ではなく予防薬であり、すでに疾患をもつ人々に対するような目に見える効果がないため、健康な人は、感染症予防や感染症拡大の抑制といったワクチンの役割に気づいていないかもしれない。
若い世代は、家族や友人がワクチンで予防可能な疾患にかかった経験がほとんどないか、自分は大丈夫と感じているかもしれない。ワクチンの安全性・有効性に関する不正確な、致命的かもしれない大量の誤った情報がソーシャルメディアを通して広く拡散されている。これにより、人によってはワクチン接種を躊躇したり、懸念を示したり、あるいは接種に強く反対したりする可能性がある。そのような人々は時として、彼ら自ら婉曲的に「ワクチンの選択」「ワクチンリスクの認識」「完全に安全なワクチン」など、誤解を招き、公衆衛生を危険にさらす表現をする。
WHO(World Health Organisation)は、世界的な公衆衛生に対する脅威のトップ10の一つとしてワクチン忌避を挙げている。ワクチン接種は現在、年間200から300万人の死を防いでいる。世界のワクチン接種率が向上すれば、この数字をさらに150万人増加させることができる。
目的
薬事規制当局国際連携組織(International Coalition of Medicines Regulatory Authorities (ICMRA [注]))による本共同声明は、医療従事者にワクチンとワクチン接種に関する重要なメッセージを提供するとともに、ワクチンはその安全性・有効性を判断するために規制当局により厳格な科学的評価を受けており、承認後も引き続き監視されることを繰り返し伝えることを目的としている。
他の医療従事者及び患者との会話のサポートに使用できるメッセージ
- ワクチンは疾患を予防することを強調する:
- ワクチンはワクチンにより予防可能な疾患による病気や死を予防する
- ワクチンを接種しなければ、麻疹、百日咳、ポリオ、インフルエンザといった有害な感染症が発生し続け、感染拡大することを思い出させる。
- 一般に利用可能なワクチンは、安全性について広範に評価され、有効であることが示されている。しかしながら、ワクチンを接種していない人にとって子宮頸癌、麻疹、百日咳、ポリオ、破傷風、インフルエンザなどの疾患は、命にかかわるか、あるいは健康に長期的な影響を与えるかもしれない。
- 特定のワクチンの利益は、関連する次のような潜在的なリスクを上回ることを強調する:
- ワクチンは通常、疾患予防のため、多数の健康な人々(多くの場合小児)に接種される。有害事象のリスクを最小化しつつ、疾患予防を担保するために、ワクチンには厳密な安全基準が設けられている。
- ワクチン接種は幅広い社会における義務の一部であることを強調する。ワクチンを接種しないという意思決定は個人的な選択のように見えるが、集団免疫のため、他者への影響は深刻である。低いワクチン接種率は、予防可能な疾患の流行を招き、感染拡大に人々がさらされることによる集団免疫の崩壊につながる可能性がある。このようなことが起こると、ワクチンを接種できる年齢に満たない幼児等の重症化しやすい人々や、特定のワクチンを接種できない、あるいはワクチン接種に対する反応が乏しい免疫不全の人々は、よりたやすく感染してしまう。集団免疫が効果的に確立し維持されるためには、麻疹などの特定の感染症に対しては、95%以上の高いワクチン接種率が求められる。
- あなたの家族にワクチン接種を促すために、あなた自身の決断を説明する―個人的なストーリーは説得力がある。
- MMRワクチンと自閉症の関係に対する誤った主張など、ワクチンに関する誤情報に対して積極的に挑む。ワクチンの誤情報のせいで、麻疹など、すでにほぼ根絶した感染症の再出現を目の当たりにしている。WHOのワクチンセーフティネットは、信頼できるワクチンの安全性情報を、インターネットユーザーがそのニーズに応じて見つけるための手助けをしている。
ワクチンと規制プロセス
ワクチンは規制当局により厳密な科学的評価を受けている。各ワクチンは、承認の可否を決定するため、そのベネフィット/リスクを評価できる入手可能なすべての科学的エビデンス(動物試験成績、臨床試験成績、製造情報)を用いて安全性・品質・有効性を厳密に評価されている。
規制当局は市販前にワクチンとその成分を評価する。ワクチンは、ワクチンにより予防可能な感染症のウイルスや細菌由来の抗原や有効成分を含む。また、ワクチンの効果を上げるために免疫反応を刺激するアジュバントのような他の成分や、保存の際ワクチンの有効性を保つ安定剤を含む場合もある。ワクチンの安全性や品質が評価する際、規制当局は、有効成分や他の成分を含むワクチンに用いられるすべての成分を評価する。
人に用いる新しいワクチンの承認の判断には、新医薬品の場合と同様、多くの場合、独立した委員会の見解が提示される。規制当局はワクチンの承認決定にあたり、通常の科学委員会とは別の委員会の意見を求めることもある。その委員会は科学、医学、公衆衛生の専門家で構成される。
ワクチンの薬学的品質は検証されている。ワクチンは厳格な規制基準に基づき製造される。ワクチンは高い製造品質基準を満たす必要があり、バッチは供給される前に、各国の国立試験機関による試験(国家検定)を受けることもある。
ワクチンは感染症の防止及びコントロールに最も成功した医療行為の一つであり、その安全性の確保が不可欠である。ワクチンは通常、疾患予防のため、多数の健康な人々(多くの場合小児)に接種される。ワクチンが、潜在的な危害リスクを最小化しつつ、その予防効果が発揮されることを保証する厳格な安全基準が不可欠である。規制当局はワクチンの全ライフサイクルにおいて、そのベネフィットが潜在的リスクを上回る場合のみ、ワクチンを承認する。
規制当局は、多くの場合公衆衛生当局と協力し、ワクチンの承認後に安全性・品質・有効性の厳格な監視を行う。安全性監視とは、被接種者、親、医療従事者からの副反応報告の受領及び評価といった受動的な監視や、ワクチンと副反応の間の潜在的な関係調査に用いられる能動的な監視システムのことを指す。規制当局が接種者、医療従事者、ワクチン製造者から副反応報告を受領すると、その情報がWHOのワクチンの安全性に関する国際諮問委員会との議論などを通して世界の規制当局間で共有される。
- ワクチンに対するあらゆる疑わしい副反応を報告し、報告しつつ患者をサポートし、市販後の継続的なベネフィット/リスク評価を更新する。
潜在的な安全上の問題が特定されると、調査が開始される。予防接種後の有害事象報告(AEFIs:adverse events following immunisation)における医療従事者の大きな貢献は非常に重要である。
規制当局は公衆衛生当局と協力し、安全上の問題が特定されたとき、断固たる行動をとる。この行動とは、患者・医療従事者・コミュニティ向けの安全情報の通知、ワクチンの添付文書改訂や患者向け資材の更新、特定のワクチンロットの出荷停止、その他必要な規制行動のこと等を指す。
多くのワクチンは、長年にわたり数百万人の人々を守るために安全に使用されてきた。高い質の臨床試験によりワクチンを接種した/接種していない多数の子供の健康を長年に渡って比較しており、また、増加している多くの種類のワクチンにおいて妊婦及び高齢者への安全性が評価されてきている。ワクチンによっては、重度の副反応のリスクが高い人々にはワクチンが接種されないように、使用にあたり禁忌や使用上の注意が設けられている。
世界的に、国民は、より幅広い集団への使用となる承認可否の決定の際の、ワクチンの安全性・有効性の科学的な評価がされる厳密なプロセスを信用することができる。
[注] ICMRAは、WHOをオブザーバーとして、世界の全地域より29の薬事規制当局を集めた団体。薬事規制当局は、人の保健に必要な安全・効果的・高品質な製品へのアクセスを促進することの重要性を認識している。ICMRAのメンバーは次の通り:Therapeutic Goods Administration (TGA), Australia; National Health Surveillance (ANVISA), Brazil; Health Products and Food Branch, Health Canada (HPFB-HC), Canada; China National Medical Products Administration (NMPA), China; European Medicines Agency (EMA) and European Commission - Directorate General for Health and Food Safety (DG - SANTE), European Union; French National Agency for Medicines and Health Products Safety (ANSM), France; Paul-Ehrlich-Institute (PEI), Germany; Health Product Regulatory Authority (HPRA), Ireland; Central Drugs Standard Control Organisation (CDSCO), India; Italian Medicines Agency (AIFA), Italy; Ministry of Health, Labour and Welfare (MHLW) and Pharmaceuticals and Medical Devices Agency (PMDA), Japan; Ministry of Food and Drug Safety (MFDS), Korea; Federal Commission for the Protection against Sanitary Risks (COFEPRIS), Mexico; Medicines Evaluation Board (MEB), Netherlands; Medsafe, Clinical Leadership, Protection & Regulation, Ministry of Health, New Zealand; National Agency for Food Drug Administration and Control [HC](NAFDAC), Nigeria; Health Sciences Authority (HSA), Singapore; Medicines Control Council (MCC), South Africa; Medical Products Agency, Sweden; Swissmedic, Switzerland; Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency (MHRA), United Kingdom; Food and Drug Administration (FDA), United States and the World Health Organization as an observer. Associate members include: Austrian Medicines and Medical Devices Agency (AGES); Danish Medicines Agency; Israel Office of Medical Technology; Health Information and Research (MTHIR); Poland Office of Registration of Medicinal Products and Biocidal Products (URPLWMiPB); Russia Roszdravnadzor; and, Spain Agencia Española de Medicametos y Productos Sanitarios (AEMPS).