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国際関係業務

医薬品のがん原性試験のための用量選択のガイダンスについて

平成8年8月6日

各都道府県衛生主管部(局)長殿

厚生省薬務局審査課長

医薬品のがん原性試験のための用量選択のガイダンスについて

   医薬品の製造(輸入)承認申請に際し添付すべき資料のうち,毒性に関する資料については,平成元年9月11日薬審1第24号厚生省薬務局審査第一課長・審査第二課長・生物製剤課長通知別添「医薬品毒性試験法ガイドライン」,平成6年7月7日薬審第470号通知別添「生殖毒性検索のための試験法ガイドライン」,平成8年7月2日薬審第443号通知別添「トキシコキネティクス(毒性試験における全身的暴露の評価)に関するガイダンス」及び平成8年7月2日薬審第444号通知別添「医薬品のための遺伝毒性試験の特定項目に関するガイダンス」により取り扱っているところであるが,このうち,がん原性試験に関して,別添のとおり「医薬品のがん原性試験のための用量選択のガイダンス」を定めたので,下記事項を御了知の上,貴管下医薬品製造(輸入販売)業者に対する周知方よろしく願いたい。

  1. 背景

 近年,優れた医薬品の国際的な研究開発の促進及び患者への迅速な提供を図るため,承認審査資料の国際的なハーモナイゼーション推進の必要性が指摘されている。このような要請に応えるため,日・米・EU三極医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議(ICH)が組織され,品質,安全性,有効性及び規制情報の4分野でハーモナイゼーションの促進を図るための活動が行われている。今回の「医薬品のがん原性試験のための用量選択のガイダンス」(以下「ICHガイダンス」という。)の制定は,三極の合意に基づき行われるものである。

  1. ICHガイダンスの要点

 標記ガイダンスは,日・米・EUのそれぞれのがん原性試験に関するガイド65ラインのうち,用量選択の問題を取り上げ,現在の科学技術水準を考慮して相互に受け入れ可能な基準として作成されたものである。従って,平成元年9月11日薬審1第24号厚生省薬務局審査第一課長・審査第二課長・生物製剤課長通知別添「医薬品毒性試験法ガイドライン」のうち「がん原性試験」(以下「現行ガイドライン」という。)については,ICHガイダンスに該当項目がある場合にはその指摘に基づいて試験を実施し,それ以外の項目については現行ガイドラインに従って実施すればよい。
 ICHガイダンスでは,医薬品のがん原性試験における高用量選択のための基準が示された。その基準としては,1)毒性学的指標すなわち最大耐量(MTD),2)薬物動態学的指標すなわち25倍のAUC比(げっ歯類:ヒト),3)用量を制約する薬力学的作用,4)吸収の飽和する量,あるいは,5)投与可能最大量が挙げられ,高用量設定に際しては,これらのいずれかに該当することとの合意が得られている。試験計画において,その他の薬力学的,薬物動態学的,あるいは毒性に基づいた指標を用いる場合には,科学的な根拠ならびに個々の正当性に基づいて考慮することとされているが,いずれの場合も,適切な用量設定試験を実施する必要がある。また,がん原性試験での用量ならびに種/系の選択に際しては,関連情報を考慮するべきであり,これらの中には,ヒトでの使用方法,曝露様式,ならびに代謝などの情報が含まれる。

  1. ガイダンスの取扱い

(1) この通知の施行の日より,ICHガイダンスに該当項目がある場合にはその指摘に基づいて実施された試験による資料を医薬品の製造(輸入)承認申請に際し添付すべき毒性試験に関する資料とすることができる。
(2) 現行ガイドラインに基づいて実施された試験による資料は,当分の間,引き続き,医薬品の製造(輸入)承認申請に際し添付すべき毒性試験に関する資料とすることができる。

  1. その他

 今後,現行ガイドラインを改正し,ICHガイダンスとの整合を図る予定である。

 

 

医薬品のがん原性試験のための用量選択のガイダンス

1 はじめに
 慣習的に,化学物質のがん原性試験においては,高用量選択の標準的な方法として最大耐量(MTD)が用いられてきた(注1)。MTDは通常3カ月毒性試験から得られるデータを基にして設定される。
 過去において,ヒトの医薬品におけるがん原性試験の高用量の選択基準は,各国の規制当局間で必ずしも一致していなかった。欧州および日本では,用量設定において,毒性指標のほか,ヒトでの最大1日量に比べはるかに高い用量(mg/kgで100倍以上)が容認されていた。しかし,米国では,伝統的に,MTDによる用量選択のみが容認されていた。一方,投与可能最大量は各国とも容認できる指標として用いられている。
 げっ歯類に対する毒性が弱い医薬品の場合,がん原性試験にMTDを用いると,極めて高用量を投与することになり,しばしば臨床用量からかけ離れた用量となってしまうこともある。この方法は遺伝毒性物質や放射線曝露のように発がん性用量の閾値を設定できないような場合には有用であるが,非遺伝毒性物質の場合では必ずしも適切な方法とは言えない(注2)。非遺伝毒性物質の場合,閾値が存在すると思われるし,また,発がん性が,正常の生理状態を変えたために引き起こされることもあり,高用量の作用を直線的に外挿することには疑問がある。このことは,ヒトで意図している曝露をはるかに越えてしまっているようなげっ歯類での曝露は,ヒトでのリスク評価に不適切かも知れないと考えさせる。なぜなら,そのような場合,試験動物種の生理状態が著しく変えられており,そのような所見はヒトでの曝露で引き起こされる事象を反映していないと思われる。
 理想的には,非遺伝毒性医薬品のげっ歯類を用いた試験における用量設定には,次のような曝露条件が必要である。
 ① ヒトの治療に用いられる量を越えた十分な安全閾を与えるものであること。
 ② 有意な慢性的生理状態の異常がなく,また,生存率の良い範囲内であること。
 ③ 被験物質の性質や動物の適切性を広く考慮に入れた動物およびヒトの包括的なデータから導かれること。
 ④ データは臨床での使用を考慮して説明できること。
 医薬品のがん原性試験における高用量選択の要件についての国際的調和を達医薬品のがん原性試験のための用量選択のガイダンスについて67成し,また,高用量選択の合理的な基本を確立するために,ICH安全性専門家作業グループは,先ず高用量選択に関して各国が容認できる科学的な基準作りからその作業を開始した。医薬品は種々の点で他の環境化学物質と異なるので,他のガイドラインといくつかの点で異なるガイドラインとなるのも当然のことである。それが医薬品のがん原性試験の信頼性を高めるはずである。即ち,多くの情報が,薬理学,薬物動態学,ヒトでの代謝動態などから得られることもある。その他に,多くの場合,患者集団,予想使用形態,曝露レベル,ヒトでの耐えられないような毒性ないし副作用の出現等の情報も得られるであろう。医薬品として開発された物質の化学的,薬理学的な性質の多様性や,発がん性における非遺伝毒性メカニズムの多様性により,用量設定においては柔軟性のある対応が求められている。用量設定においては,適切かつ容認できると思われるいくつかの方法があるが,本文書では,医薬品のがん原性試験の用量設定のために,もっと合理的な方法を採用すべきであることを提案している。それらは,
 ① 毒性学的指標
 ② 薬物動態学的指標
 ③ 吸収の飽和する量
 ④ 薬力学的指標
 ⑤ 投与可能最大量
 ⑥ その他の指標
などである。
 あらゆる信頼性のある動物データや,利用可能なヒトでのデータを取り入れて考慮することは,がん原性試験の高用量設定に際し,最も適切な指標を決定する上で重要なことである。高用量選択にどの指標を最初に用いたかにかかわらず,がん原性試験の用量設定においては,常に,適切な薬物動態学的,薬力学的,および毒性学的なデータが考慮されるべきである。
 このように柔軟性のある方法をとる過程においては,発がん性について基本的なメカニズムが現時点でまだよく分かっていないことを認識すべきである。更に,ヒトの発がん性リスクを予測するのに,げっ歯類を用いることが現時点では最も良い方法であるが,それには自ずから限界があることを認識すべきである。例えば,薬物由来の物質を血漿レベルで調べることは,げっ歯類の試験を改良するための重要な試行であるが,この分野の進歩には,ヒトでのリスクを検出するための最良の方法を検討し続ける必要がある。従って,このガイドラインはこのような困難で複雑な領域におけるガイダンスを意図して作られ,もし新しいデータが入手されれば,以下に述べる規定の一部を改訂することも重要なことであることと認識している。

2 用量設定試験の実施に当たっての一般的事項
 がん原性試験での高用量選択のための用量設定試験を計画する場合に考慮すべき以下の点は,用いる最終的な指標の如何にかかわらず同じである。
 ① 現実には,がん原性試験は限られた数のラットやマウスが用いられ,自然発生腫瘍の発生率の情報が明らかである系統によって実施される。理想的には,ヒトとなるべく類似した代謝様式を示すげっ歯類の種/系が望ましい(注3)。
 ② 用量設定試験では,がん原性試験に供される種および系の雌雄両性を用いるべきである。
 ③ 用量設定は,通常,がん原性試験で用いられる投与経路と投与方法による90日試験で行う。
 ④ 投与計画と投与方法の選択は,臨床使用,曝露形式,薬物動態および実際面を考慮して行う。
 ⑤ 理想的には,毒性プロフィールと用量を制約している毒性を明らかにすべきである。また,一般毒性,前腫瘍性病変ないしは組織特異的な増殖性作用や内分泌のホメオスターシスの障害の有無を考慮すべきである。
 ⑥ 経時的な代謝プロフィールの変化や,代謝酵素活性の変化(誘導または阻害)を理解し,試験を適切に解釈するのに役立てるべきである。

3 高用量選択における毒性学的指標
 ICH 1ではがん原性試験の高用量選択にMTD以外の他の指標を評価することに合意した。それらの指標は被験物質の薬理学的な性質や毒性所見に基づくものであった。しかし,MTD以外に毒性学的な指標を使用することに関して科学的な合意は得られていなかった。したがって,ICH安全性EWGではがん原性試験の高用量選択に際し,毒性に基づいた指標として,容認できるMTDを継続して使用することに合意した。
 次に示すMTDの定義は,各国の行政機関が以前より公表しているものと矛盾しないものと考えられる(注1)。高用量あるいは最大耐量(MTD)は,がん原性試験において僅かな毒性作用が現れることの予想される用量である。そのような作用は,僅かな毒性がみられる90日間用量設定試験の結果から予知できると考えられる。考慮すべき要因としては,動物の正常な寿命に影響を与えるような,あるいは試験の解釈を損なうような生理機能の変化がある。そのような考慮すべき要因としては,対照群と比較して体重増加抑制が10%以上でないこと,標的臓器毒性がみられること,臨床病理学的パラメーターに有意の変動がみられること,などが挙げられる。 医薬品のがん原性試験のための用量選択のガイダンスについて694 高用量選択における薬物動態学的指標
 非遺伝毒性医薬品(注2)がヒトとげっ歯類でよく似た代謝様式を有し,かつげっ歯類での臓器毒性が低い場合(げっ歯類では高用量まで耐薬能がある)には,ヒトでの(最大推定一日量における)血中濃度時間曲線下面積(AUC)の高倍数で表される全身曝露量が,がん原性試験における用量設定に適した指標と考えられる。がん原性試験が適切であることを充分に保証するためには,動物での全身曝露のレベルが,ヒトでの曝露に比べ,十分に高くなければならない。
 動物種が異なると,代謝および排泄パターンに違いがあるため,投与した薬物量と組織中の薬物濃度が対応しない場合のあることが認められている。全身曝露における比較は,投与用量よりも未変化体およびその代謝物の血中濃度により,より良く評価できる。血漿中の非結合薬物は組織内の非結合薬物の濃度の最も適切な間接的指標と考えられる。AUCは化合物の血漿中濃度とin vivoでの滞留時間が考慮されているので,最も包括的な薬物動態学的な指標と考えられる。
 動物およびヒトにおける薬物の血漿中濃度を比較することによって,ヒトのがん原性リスク評価を行うことは,今のところ,科学的な根拠として確認されていない。しかしながら,現在のところ,MTDで実施されたがん原性試験のデータベースの解析によれば,がん原性試験での高用量選択には,げっ歯類では親化合物ないしは代謝物のヒトでの血漿AUCの25倍とすることが実際的であると考えられる(注4)。

5 高用量選択のための動物とヒトでのAUCの比較に関する基準
 高用量選択に際して,薬物動態学的に規定された曝露量を用いる場合,次のような基準が特に適用できる。
 ① げっ歯類の薬物動態データは,がん原性試験に用いられる系統から得られたもので,がん原性試験で計画されているのと同じ投与経路および用量範囲を用いたものから得られたものであること(注5,6,7)。
 ② 薬物動態データは,用量設定試験の間に発生すると思われる薬物動態学的パラメータについて経時的変化を考慮した十分な投与期間の試験から得られたものであること。
 ③ げっ歯類とヒトとの間で代謝の類似性に関する文書があること(注8)。
 ④ 曝露量を評価する上で,AUCの比較を,未変化体のデータを基にするのか,未変化体と代謝物の両方にするのか,あるいは代謝物のデータにするのかについての決定は科学的に判断する。この決定理由については明示すること。
 ⑤ 相対的な曝露量を推定するとき,蛋白結合には種差のあることを考慮すること(注9)。
 ⑥ ヒトの薬物動態データは,ヒトの推定最大一日量を含む試験から得られたものであること(注10)。

6 高用量選択における吸収の飽和する量
 薬物に関連する物質の全身性利用率(バイオアベイラビリティ)から測定された吸収の飽和量に基づく高用量選択が容認されている。がん原性試験での中および低用量の選択には,代謝および排泄過程での飽和についても考慮すべきである。

7 高用量選択における薬力学的指標
 多くの医薬品において,その有用性と安全性は,受容体の薬力学的選択性に依存している。高用量選択のための薬力学的指標は,化合物に極めて特異的であるので,科学的正当性に基づいて個々の試験計画において検討すべきである。選択された高用量は,それ以上に投与量を上げることができないような用量を投与したときにみられる薬力学的な反応と同様の反応を投与した動物に生ずるものでなければならない。しかし,試験の妥当性を損なうような生理的あるいはホメオスターシスの障害を惹起してはならない。そのような例として,低血圧や血液凝固阻害(自然発生の出血のリスクがあることによる)などがある。

8 投与可能最大量
 現在,混餌投与による投与可能最大量は飼料中5%と考えられている。各国の行政当局はこの基準を再評価しているところである。毒性の低い医薬品の用量設定において,このガイドラインで述べているように,薬物動態学的な指標(AUC比)を用いることにより,高用量選択に投与可能最大量の基準を用いる必要性は著しく減少するはずである。
 混餌投与以外の投与経路の方が適切な場合,高用量は実用性あるいは局所毒性などにより制約されるであろう。

9 高用量選択におけるその他の指標
 げっ歯類を用いたがん原性試験の高用量選択において,このガイダンスで特に定義されなかったその他の指標を用いることが良い場合もあると認識している。個々の試験計画において,これらその他の指標を用いる場合には,科学的な根拠に基づくものでなければならない。それらの計画は個々の正当性に基づいて評価される(注11)。 医薬品のがん原性試験のための用量選択のガイダンスについて7110 がん原性試験における中および低用量の選択
 高用量を選択する方法の如何に関わらず,がん原性試験の中および低用量の選択は,その試験の所見をヒトへ外挿して評価する際に助けとなるような情報が提供されるものでなければならない。その用量は,げっ歯類およびヒトでの薬物動態,薬力学的および毒性データを総合的に判断して選択すべきである。その際には,これら用量を選択した根拠を明らかにすべきである。げっ歯類を用いたがん原性試験の中および低用量の選択においては,全ての条件を満足させる必要はないが次の点を考慮すべきである。
 ① 薬物動態の直線性と代謝経路の飽和。
 ② ヒトでの曝露量と治療量。
 ③ げっ歯類での薬力学的反応。
 ④ げっ歯類の正常な生理状態の変化。
 ⑤ 作用メカニズムの情報および作用における閾値の存在の可能性。
 ⑥ 短期試験で観察される毒性の進行が予測困難であること。

11 まとめ
 このガイダンスでは,医薬品のがん原性試験における高用量選択のための4つの一般的に合意できる基準を概説した。それらは最大耐量(MTD),25倍のAUC比(げっ歯類:ヒト),用量を制約する薬力学的作用,吸収の飽和量,および投与可能最大量である。試験計画において,その他の薬力学的,薬物動態学的,あるいは毒性に基づいた指標を用いる場合には,科学的な根拠ならびに個々の正当性に基づいて考慮される。いずれの場合も,適切な用量設定試験を実施する必要がある。がん原性試験での用量ならびに種/系の選択に際しては,あらゆる関連情報が考慮されるべきである。これらの情報の中にはヒトでの使用,曝露様式,ならびに代謝が含まれるべきである。多くの容認できる用量設定の基準が存在し利用できることにより,より柔軟に医薬品のがん原性試験の最適な計画を立てることができると思われる。 (注)

注1;
 次に掲げるのは,最大耐量(MTD)を記載した毒性に基づく指標についての同義の定義と考えられる。  発癌物質に関する米国省庁間職員グループ(U.S. Interagency Staff Group onCarcinogens)ではMTDを次のように定義している。
 「現在,推奨されている高用量は,慢性試験の期間中投与された場合,発がん性以外の作用によって動物の正常な寿命を著しく変化させないで,僅かな毒性徴候が現れる十分に高い量であることとされている。この量は,最大耐量(MTD)と呼ばれ,亜慢性試験(通常90日間)において,主として死亡率,毒性ならびに病理学的な基準に基づいて決定される。MTDでは,試験の解釈を損なうほど著しい形態学的な毒性所見を生じてはならない。更に,動物飼料中の画分を,飼料中の栄養成分が変化し栄養学的不均衡を来すほど,大きくしてはならない。」
 「MTDは,初期には,亜慢性試験で観察される体重増加抑制,即ち,10%以上の体重増加抑制を起こさない用量のうち最高の用量に基づいていた。最近の試験および多くの試験の評価では,もっと広範囲の生物学的な情報に基づきMTD選択の改良がなされている。体重および臓器重量の変化ならびに血液学的,尿,臨床生化学的検査値の有意な変化は,通常,より明確な毒性,病理,病理組織学的な指標と共に有用である。」(Environ-mental Health Perspectives vol.67, pp.201-281, 1986)
 日本では次のように規定されている。
 「がん原性予備試験で対照群と比較し10%以下の体重増加抑制を示し,毒性作用による死亡や,動物の一般状態や検査所見において著しい変化のない用量を,高用量としてがん原性試験の本試験に用いる。」(医薬品毒性試験法ガイドライン,1989)
 欧州共同体(EC)の特許医薬製品委員会では次のように規定している。
 「高用量は僅かに毒性作用,例えば10%体重減少あるいは成長障害,僅かの標的臓器毒性などを生ずる量であるべきである。標的臓器毒性は生理学的な機能の障害,および最終的には病的変化として示される。」(EC医薬製品管理規則 VOL III, 1987)
注2;  標準的な試験の組み合わせでは,全ての遺伝毒性メカニズムの可能性を調べられない以上,このガイドラインの目的として,もし医薬品の登録に際し課せられている標準的な試験の組み合わせで陰性であり,しかも用量設定に際し薬物動態学的指標を用いている場合にはその医薬品は非遺伝毒性と考える。
注3;  このことは,あらゆるげっ歯類について,代謝のプロフィールを調べることを意味しない。むしろがん原性試験に用いられる標準的な系につき調べることである。
注4;  がん原性試験の用量設定において,容認できる指標としてヒトのAUCの何倍かを選択するために,過去にMTDで実施され,ヒトおよびげっ歯類の十分な薬物動態学的データがあり,そのAUC値の比較ができる医薬品のがん原性試験データにつき,さかのぼって分析を行った。
 MTDで実施された医薬品のがん原性試験のうち,ラットおよびヒトで適切な薬物動態学的データのあったのは35件で,おおよそ1/3は相対的全身曝露比が1あるいはそれ以下で,他の1/3は1から10の間であった。
 相対的全身曝露比,相対的用量比(ラット:mg/kg,ヒト:mg/kg MRD)および体表面積に換算した用量比(ラット:mg/M2 MTD,ヒト:mg/M2 MRD)の相関性を上述のデータベースを用いて検討したところ,相対的全身曝露は,体重当たりよりも体表面積当たりで換算した用量比と良く対応する。更にFDAデータベースで,123の化合物につき同様の方法で調べたところ,同様の相対的全身曝露の分布が観察された。
 高用量選択に,相対的全身曝露比(AUC比)を用いる場合には,十分な安全閾を与え,ヒトに対する既知のあるいは疑いのある発癌物質が検出でき,合理的な割合の化合物で達成できるような値が示された。
 ヒトに対する既知のあるいは疑いのある発癌物質の検出における問題に着手するに当たって,曝露の分析ないしは用量比について,ラットで陽性のIARCのクラス1と2Aの医薬品について検討した。フェナセチンについては,ラットとヒトの薬物動態学的データが医薬品のがん原性試験のための用量選択のガイダンスについて73十分あり,ラットのがん原性試験で陽性所見を得るには,相対的全身曝露比が少なくとも15であると推定される。
 ラットのがん原性試験で陽性と評価され,IARCのクラス1と2Aと分類された14薬物のほとんどに分析できる適切な薬物動態学的データがない。これらの化合物では,体表面積当たりの用量比を相対的全身曝露比に代用した。分析の結果,げっ歯類における体表面積比当たりの用量が10あるいはそれ以上あれば,これらの医薬品の発がん性の可能性を確認できるだろうと思われた。  上記の評価の結果,高用量選択の容認できる薬物動態学的な指標として,最小全身曝露比として25が提案された。この値は,FDAのデータベースにおいて,試験された化合物の約25%において達成されていたが,ヒトに対する既知のあるいは疑いのある発がん性薬物(IARCの1,2A)を検出するのに十分な程度に高く,また十分な安全域を表している。高用量がAUC比として25倍あるいはそれ以上で試験された医薬品は,過去にMTDによるがん原性試験が実施された医薬品のうち75%以上に当たる。
注5;  げっ歯類のAUCや代謝物のプロフィールは,亜慢性毒性試験あるいは用量設定試験の一部として行われる定常状態での薬物動態の検討から明らかにされるかも知れない。
注6;  げっ歯類のAUC値は,投与経路や被験物質の薬物動態学的な性質に依存し,通常,少数の動物を用いて求められる。
注7;  げっ歯類およびヒトの血漿中薬物濃度の測定は感度および精度において同等の分析方法で測定されるべきである。
注8;  可能であれば,ヒトおよびげっ歯類でin vivoにおける代謝の特性を明らかにしておくことが望ましい。しかし,in vivoでの適切な代謝データがない場合にはin vitroの代謝試験(例えば,肝スライスや非誘導のミクロソーム標本)で種間での代謝の類似性を示すものとして十分な結果が得られるかも知れない。
注9;  非結合型薬物をin vivoで測定するのが最も良い方法であるが,未変化体ないしは適切な代謝物(in vivoにおいてげっ歯類とヒトの濃度幅を越える場合)を用いたin vitro蛋白結合試験は非結合薬物のAUCを推定する上で利用できるであろう。ヒトおよびげっ歯類で,共に蛋白結合が低い場合や,蛋白結合が高くそして薬物の非結合フラクションがヒトよりげっ歯類で大きい場合などは,薬物の総血漿濃度の比較でもよい。蛋白結合が高く,非結合フラクションがげっ歯類よりヒトで大きい場合は,蛋白非結合薬物の比率を考慮すべきである。
注10;  ヒトでの全身曝露データは,正常のボランティアないしは患者を薬物動態学的にモニターすることにより得られる。しかしながら曝露される個体間で差が大きい可能性を考慮すべきである。ヒトにおける最高一日量が分からない場合においては,最低限,ヒトで期待する薬力学的作用を起こす用量を薬物動態学的データを得るために用いるべきである。
注11;  医薬品に特異的で,適切な高用量選択に必要なその他の指標は,現在,検討中である(例えば,新たな薬力学的,薬物動態学的,あるいは毒性的な指標のほか,投与可能最大量に代わる方法)。