放射性医薬品(Radiopharmaceuticals)とは、放射性同位元素(Radioisotope: RI)を含む医薬品のことをいい、具体的には、以下を満たすものを指します。
- 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(昭和35年法律第145号)第2条第1項に規定されている医薬品のうち、「原子力基本法」(昭和30年法律第186号)第3条第5号に規定される放射線を放出する医薬品
- RIを構造元素に持つ非密封の化合物及びそれらの製剤
放射性医薬品は、核医学において診断及び治療の目的で使用されます。
診断用放射性医薬品には、人体に投与し、RIが放出する放射線の測定に使用する「体内診断用放射性医薬品」と、人体に投与せず、体外での血中又は尿中の物質の測定に使用する「体外診断用放射性医薬品」があります。
放射性医薬品に関連する品目の医薬品等の区分及びPMDAにおける担当部署は、以下のとおりです。
品目 | 医薬品/医療機器/体外診断用医薬品の別 | 担当部署 |
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体内診断用放射性医薬品 | 医薬品 | 新薬審査第二部 |
治療用放射性医薬品 | 医薬品 | 新薬審査第二部 |
ジェネレーター | 医薬品 | 新薬審査第二部 |
放射性医薬品合成装置 | 医療機器 | 医療機器審査第一部 |
体外診断用放射性医薬品 | 体外診断用医薬品 | 体外診断薬審査室 |
本ページでは、主に、上表の「医薬品」に区分される体内診断用放射性医薬品と、治療用放射性医薬品について説明します。
放射性医薬品と放射性医薬品基準について
放射性医薬品の特徴
診断用放射性医薬品(Diagnostic Radiopharmaceuticals)及び治療用放射性医薬品(Therapeutic Radiopharmaceuticals)は、いずれも、標的部位に特異的に結合するリガンド(低分子化合物、ペプチド、抗体等)とRIを組み合わせること、又はRI自身の特定の器官・組織への指向性を利用することにより、標的部位にRIを送達・集積させ、RIから放出される放射線に基づき有効性が発揮されます。
診断用放射性医薬品及び治療用放射性医薬品の特徴は、下表のとおりです。
診断用放射性医薬品 | 治療用放射性医薬品 | |
---|---|---|
目的 | 標的分子の発現、器官・組織の機能、血流状態等の可視化 | 悪性腫瘍等に対する治療 |
放射線 | ガンマ(γ)線 注 飛程距離が長く、透過性の高い放射線が用いられる |
ベータ(β)線、アルファ(α)線、オージェ電子 注 飛程距離が短く、細胞障害性を有する放射線が用いられる |
主なRI | 11C、13N、15O、18F、68Ga、64Cu(PET用核種) 123I、99mTc、111In(SPECT用核種) 注 物理的半減期が短い核種が用いられる |
131I、90Y、177Lu(β線放出核種) 223Ra、 211At、225Ac(α線放出核種) 64Cu (β線/オージェ電子放出核種) 注 物理的半減期が比較的長い核種が用いられる |
セラノスティクス
セラノスティクス(Theranostics)とは、治療(Therapeutics)と診断(Diagnostics)を合わせた造語であり、ラジオセラノスティクス(Radiotheranostics)は、放射性医薬品を用いた画像診断と治療を一体化して実施する医療技術です。診断用放射性医薬品を用いた画像診断により、患者の疾患の状態等を確認することで、当該患者における同等の体内動態を示す治療用放射性医薬品の有効性(治療効果)や安全性(副作用)の予測に寄与することが期待され、個別化医療を実現する手法の一つとして、近年研究開発が進められています。
放射性医薬品基準
「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(昭和35年法律第145号)第四十二条第一項注)の規定に基づき、日本で製造販売される放射性医薬品は品目毎に定められた製法、性状、品質、貯法等に関する基準に適合する必要があります。新規の放射性医薬品を日本で製造販売する際には、承認申請時に放射性医薬品基準(改正案)を、CTD1.13に厚生労働省への提出資料として提出してください。
注)厚生労働大臣は、保健衛生上特別の注意を要する医薬品又は再生医療等製品につき、薬事審議会の意見を聴いて、その製法、性状、品質、貯法等に関し、必要な基準を設けることができる。
提出された放射性医薬品基準(改正案)は、承認審査と並行して検討され、厚生労働省によるパブリック・コメントの実施、WTO通報等を経て、申請品目の製造販売承認の可否等と併せて薬事審議会にて審議されます。審議結果を踏まえた放射性医薬品基準は、当該申請品目の製造販売承認と同時に改正されます。
放射性医薬品基準(改正案)の作成にあたっては、当該基準に収載済の品目を参考にしてください。
放射性医薬品基準
〇放射性医薬品基準の関連通知等
放射性医薬品基準(厚生労働省告示第83号) [513KB]
放射性医薬品基準の一部を改正する件
厚生労働省告示第302号(2013年(平成25年)9月20日) [105KB]
厚生労働省告示第416号(2015年(平成27年)10月2日) [71KB]
厚生労働省告示第107号(2016年(平成28年)3月28日) [75KB]
厚生労働省告示第424号(2016年(平成28年)12月19日) [119KB]
厚生労働省告示第310号(2017年(平成29年)9月27日) [198KB]
厚生労働省告示第90号(2021年(令和3年)3月23日) [599KB]
厚生労働省告示第247号(2021年(令和3年)6月23日) [102KB]
厚生労働省告示第352号(2021年(令和3年)9月27日) [171KB]
厚生労働省告示第51号(2022年(令和4年)3月2日) [81KB]
厚生労働省告示第376号(2024年(令和6年)12月27日) [184KB]
放射性医薬品基準解説書(日本放射性医薬品協会)[2.03MB]
診断用放射性医薬品について
ガイダンス・ガイドライン等
(2012年8月13日付け事務連絡) (2025年3月26日付け医薬品医療機器総合機構新薬審査第二部)このEarly Considerationは、診断用放射性医薬品の開発に際して必要な非臨床試験について、「診断用放射性医薬品の臨床評価方法に関するガイドライン」で示された内容を補完するとともに、新たに発出された ICH ガイドライン等を踏まえ、規制上の考え方をより明確に提示するために発出したものです。診断用放射性医薬品の非臨床試験の実施にあたり、「診断用放射性医薬品の臨床評価方法に関するガイドライン」とともに参照してください。
講演資料等
PMDA職員が学会、セミナー等で診断用放射性医薬品に関して講演した際の資料等を掲載しております。なお、これらは演者の個人的見解に基づくものもあり、必ずしもPMDAの公式見解ではないことに留意してください。
講演名/資料 | 補足 |
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PMDA-ATC Radiopharmaceuticals Webinar 2024 for FDA Philippines(2024年11月) Session1 [1.08MB]、Session2 [786KB]、Session3 [426KB] |
海外規制当局に対して、放射性医薬品(主に診断用放射性医薬品)の審査の概要、並びに品質、非臨床及び臨床評価のポイントについて解説したものです。 |
第64回日本核医学会学術総会/第44回日本核医学技術学会総会学術大会(2024年11月) |
診断用放射性医薬品の非臨床及び臨床評価のポイントについて、既承認品目の事例を交えて講演したものです。 |
治療用放射性医薬品の適応判定に用いる診断用放射性医薬品の情報
近年、セラノスティクス(1. 参照)の実現に向けて、国内外で様々な治療用放射性医薬品及び診断用放射性医薬品が開発されている状況を踏まえ、治療用放射性医薬品の適応判定に用いる診断用放射性医薬品について、医療機関における検査の実施可能性等も考慮し、合理的かつ円滑に使用可能とすることが重要と考えます。そのため、診断用放射性医薬品により適応判定を行う対象について、承認事項においては個別の治療用放射性医薬品に限定せず、治療用放射性医薬品の適応判定に使用可能であると承認審査で判断された診断用放射性医薬品について、本ページにおいて、適時に情報提供することといたしました。
上記のような治療用放射性医薬品及び診断用放射性医薬品を開発する際には、FAQも参照してください。
- 治療用放射性医薬品の適応判定を目的として承認された診断用放射性医薬品の情報
FAQ
Q1:診断用放射性医薬品の製造販売承認までの流れが知りたい。
A1:放射性医薬品を含む医薬品の製造販売承認までの流れは、こちらをご覧ください。また、診断用放射性医薬品の非臨床試験、臨床試験の評価方法等の詳細は、上記の「ガイダンス・ガイドライン等」を参照してください。
Q2:診断用放射性医薬品の臨床評価において、重要なポイントを知りたい。
A2:診断用放射性医薬品の臨床的有用性を説明する上では、1.画像から得られる情報が正確であることに加え、2.その情報に臨床的意義があることを説明する必要があります。例えば、以下のように説明されます。
- 臨床試験における、診断薬を用いた検査の診断能の結果に基づき説明されます。臨床試験では、一般的に、感度(疾患を有する群において検査が陽性となる確率)や特異度(疾患を有しない群において検査が陰性となる確率)等の診断能が評価されます。
- 診断薬を用いた検査により検査対象となる患者が得られる臨床的なベネフィット(例.適切な治療法を選択できる、臨床転帰が改善する、等)に基づき説明されます。既存の診断法、確立した治療法の有無等の現行の診療体系により、臨床的意義を説明する方法は異なります。
詳細は、「診断用放射性医薬品の臨床評価方法に関するガイドライン」を参照してください。
Q3-1:診断用放射性医薬品による適応判定が必要な治療用放射性医薬品を新たに承認申請する際、その適応判定に使用する診断用放射性医薬品について、申請資料中でどのような説明が必要なのか知りたい。
A3-1:申請予定の治療用放射性医薬品の適応判定に用いる診断用放射性医薬品が、当該治療薬の主要な臨床試験の組入れに使用されていた場合、当該診断薬により組み入れられた患者集団で当該治療薬の臨床的有用性が示されていること等に基づき、当該治療薬の適応判定が可能であることを説明する必要があります。一方、当該治療薬の主要な臨床試験の組入れに使用されていない場合、当該臨床試験の対象患者と同等の患者集団を当該診断薬により特定できることを、根拠に基づき説明する必要があります。
治療用放射性医薬品の主要な臨床試験の組入れでの使用の有無等によって、その適応判定に診断用放射性医薬品が使用可能であるかを評価するために必要な検討内容等は変わり得ることから、当該治療薬の主要な臨床試験の計画段階等、適時にPMDAに相談することを勧めます。
なお、治療用放射性医薬品の適応判定に用いる新たな診断用放射性医薬品の開発においても、基本的な考え方は同様です。
Q3-2:既承認の治療用放射性医薬品と適応対象(対象疾患、検査項目)が同一の新たな治療用放射性医薬品について、既承認の診断用放射性医薬品により適応判定が可能と考えられる場合、当該治療薬の承認に伴い、診断薬の製造販売業者において必要な薬事上の手続き(一部変更承認申請、注意事項等情報(添付文書)の改訂等)があるか知りたい。
A3-2:承認審査において、既承認の診断用放射性医薬品を新たな治療用放射性医薬品の適応判定に使用可能であると判断された場合には、本ページにおいて、治療用放射性医薬品の適応判定に使用可能な診断用放射性医薬品の情報として提示します。したがって、新たな治療用放射性医薬品の承認に伴い、既承認の診断用放射性医薬品について、一部変更承認申請は必要ありません。注意事項等情報については、当該治療薬の承認申請資料等に基づき、改訂が必要になる場合もあります。
Q4:医療機関で放射性標識した上で使用する被標識用製剤を新たに承認申請する際、当該製剤の放射性標識に使用する放射性核種の供給方法(ジェネレータ剤等)について、申請資料中でどのような説明が必要なのか知りたい。
A4:当該製剤の放射性標識に使用する放射性核種の供給方法により、適切に当該製剤の放射性標識が可能であることを、根拠に基づき説明する必要があります。例えば、使用する被標識用製剤と放射性核種の供給方法の組合せで調製された標識薬剤の臨床試験における使用実績の他、使用する組合せで調製された標識薬剤と臨床試験で使用した標識薬剤との品質(ロット分析、不純物プロファイル等)、取得された画像の比較結果等に基づく説明が想定されます。
治療用放射性医薬品について
ガイダンス・ガイドライン等
(2025年8月1日付け医薬薬審発0801第1号) (2025年8月1日付け事務連絡)このガイドラインは、新規の治療用放射性医薬品の製造販売承認申請や臨床試験開始に必要な非臨床試験、臨床試験を実施する場合に考慮すべき基本的事項をまとめたものです。治療用放射性医薬品の臨床評価等のポイントは、開発対象となる疾患によって異なるため、当該疾患領域の臨床評価方法に関するガイダンス・ガイドライン等が参考になります。各疾患領域のガイダンス・ガイドライン等は、こちらを参照してください。